私が新卒の頃に体験した話です。
就職活動を真面目に行わなかった自分は、父の知り合いの施工会社に半ば拾ってもらう形で手に職を就けることになりました。
施工と言っても私は実際に現場に行くわけではなく、帳簿をつけたり見積りを送ったり、いわゆる雑務を任される役割でした。
そんな私の仕事の一つに「材料などを保管している倉庫の整頓」というものがあったのですが、その倉庫には一つ奇妙なところがありました。
倉庫の隅っこに古めかしいデスクが置かれ、その上にいつも塗料やら工業用のアルコールやらが一缶だけ置かれているのです。
それも一度置いたら置きっぱなしというわけじゃなくて、定期的に新しいものに交換されているようでした。仕事を教えてくれた先輩に尋ねても「そういうもんだから。気にしないで」とぼんやりした返事しか帰ってこず、まあ気に留めるほどのことでもないかと思っていたのですが……。
その日私は、夜遅くまで職場に残って残業していました。
会計処理で大ポカをやらかしてしまい、その手直しに奔走していたためです。
もうじき日も変わろうかという頃にようやく終わりが見え始め、これなら明日で片付くな、今日は流石にもう帰ろう……と思ったその時でした。
深夜の自分以外ほとんど誰もいない会社の中に、ガシャーン!という大きな音が響き渡ったのです。音は、オフィスの真隣に接している倉庫の中から聞こえたように思われました。
この時点で音の正体には察しがついていました。大方、誰かが適当に積んだ材料缶か何かが崩れてしまったのだと思いました。
正直面倒ではありましたが、もしも缶の中身が零れていたりしたら明日小言を言われるのは自分です。
それに倉庫の整頓や清掃は自分の役目なのですから、まあこれも仕事だと自分を納得させ、倉庫に向かいました。
倉庫の扉を開けた瞬間、怪訝な顔になりました。
扉を開けるまではまったく気付きませんでしたが、倉庫の中では奇妙な音がしていたのです。
ぴちゃ、ぴちゃ。ずず、ずず。
最初は落ちた缶の中身が零れているのだろうと考えましたが、しかしすぐにどうもそうではないらしいことを悟り、気味の悪さを感じ始めました。
その音は、昔実家で飼っていた猫がミルクを啜っている時の音によく似ていました。
しかしもちろん、こんなところに犬猫が入り込むわけがありません。施工で使う材料なんて有害物質の塊なんですから、ネズミだって飲んだりはしないでしょう。
じゃあ、この音はいったい……。私は倉庫の電気をつけると、音の出所を探って歩き始めました。
そして私は、どうもこの音が例の「材料缶の載せられたデスク」の方から聞こえているらしいと気が付いたのです。
それでもこの時はまだ、恐怖よりも何が起きているのか突き止めたい好奇心と、材料がこぼれているなら片付けなければという責任感が勝っていました。
けれど棚をいくつか分け入って進んで、とうとう例のデスクのところまで辿り着いた瞬間、私は自分の判断を心底呪いました。
デスクの上に載せられていたのは白の塗料だったのですが、確かにそれは床に落ち、水溜まりを広げていました。
そしてその上に覆いかぶさるようにして、土気色の肌をした、ガリガリに痩せ細った作業着の男がこぼれた塗料を啜っていました。
ぴちゃぴちゃ、ずずずず、という音は、これが塗料を啜っている音あったのです。
状況が呑み込めず固まっている私の前でその男がおもむろに顔をあげました。
その瞬間私はようやく我に返って情けない声をあげながら逃げ出したのですが、逃げる際に一瞬ではあるもののその男の顔を見てしまいました。
赤色と土気色が混ざったような、生きている人間ではあり得ないような顔色。半開きの口からはだらだらと啜った塗料を垂れ流していて、なのに表情はニタニタと笑っていて。
その顔はどう考えても、この世のもののそれじゃありませんでした。
おおおこわい
毎回ペンキを零されていたら床が大変なことになるのでは…
お供えがペンキて。
面白かった
アル中患って死んだらこうなっちまうのか…
酒控えよ
とりあえず工業用でもいいからアルコールを供える、までは良いとしてペンキ!?
中毒の行き着く先は恐ろしい。
こういう場所の上に家がたって怪奇現象引き継ぐんだよなーと
おもしろい。映像が見える。すごい文章。
いや、そのあとどうなったんだよ
アル中の幽霊は普通にペンキを飲むことに驚いたwwwwww
文章上手い。読みやすかった。
「供えとけばとりあえず出てこない」ってことは それがわかるまでは事務所まで出てたんかな(ノдヽ)コワイ…
建物もなくなって供物もなくなったらその辺ぶらぶら歩いてるかもしれんし 近隣で勝手になんらか啜ってそう((( ;゚Д゚)))アババ