忘れるなよ
投稿者:白死蝶 (2)
これは以前から私が趣味にしている海を眺めていた際に体験した出来事です。
恐らくですが、私は海に取り憑かれているのだと思います。月に一回、多い時で3日に一回は必ず海へと足を運び打ち寄せる波音と静かな音楽を聴きながら本を読む。
これが私の1番の癒しなのです。
その日も私は鞄にいつも持っていく道具たちを詰めて、車を走らせました。いつもと同じ時間、いつもと同じ道をゆっくりと。
すると道中、大きな荷物を抱えたおばあさんを見かけました。普段の私ならば特に気にもかけず大変そうだな程度の感想で終えるのですが、この時の私には何故かこのおばあさんとの縁を作ることが最上のように思えてならず近くのパーキングにわざわざ車を停めてお声がけをしました。
詳しくお話しを聞くと、本日がたまたまおばあさんの旦那様の命日らしくせっかくなので2人でよく行った海岸でお茶でもしながら思い出に浸ろうとしていたそうです。
アルバムやお弁当、飲み物などを用意していたら思わず大荷物になってしまったと。
海岸の場所を聞くと偶然にも私が向かおうとしていた海岸と同じだった為、もしよろしければと同行をお誘いしました。
最初は渋っておられましたが、私の車を見ると態度が一変しました。是非乗せていただきたいとむしろ頭を下げられたのです。
これもまた偶然なのか、私の乗っていた車が旦那様が生前最後に乗っていた車と同じ車種でナンバーも一桁違いというなんとも奇妙な巡り合わせでした。
広く座られたいとの事だったのでお荷物を助手席でお預かりし、後部座席へご案内しました。道中、とても懐かしむような嬉しい顔をされながら揺れておられたのがとてもよく印象に残っています。
海岸に着いた時、何故か分かりませんが突然私の胸に郷愁の想いが湧き上がりました。とてもとても懐かしく愛おしいそんな場所に来たようなそんな心地でした。
おばあさんに降車いただき、お荷物と私の鞄を持って浜辺へと降りる階段に2人で腰を下ろしました。
2人とも無言でじっと海を眺めていました。打ち寄せる波はとても優しく穏やかで見ている間にスーッと意識が遠のいていくのを感じました。あれ、眠くなったかな?と思っていると突然私の口から私のものとは思えない声で一言
『忘れるなよ』
と声が発せられました。まるで高齢の男性の様な声で私がハッとしておばあさんを見ると、おばあさんも驚いた様な表情で口元を抑えながら私を見つめておられました。
すると突然、ポロポロと涙を流しながらおじいさんとの思い出話をしてくださったのです。
おじいさんは生前、とても口数が少なく言葉足らずな人間だったそうです。いつも『あれしてくれ』『これしてくれ』と言って、何故それが必要なのかを説明しなかったと。そんなおじいさんがおばあさんに良く言っていた事が一つだけあったそうです。
それが『他人から受けた恩は何があっても忘れるなよ』とのことでした。何か他人に助けてもらう事があるごとに『忘れるなよ』と言っていたと。
そして私の口から漏れ出た声、それがまさしくおじいさんの声だったそうです。
「この恩を忘れるなってことかしらね」
と微笑みながら涙を拭ってお話されるおばあさんはとても素敵に見えました。
一緒にアルバムを見ながらお昼を食べ、ご自宅までお送りした後おばあさんからは連絡先をいただきいつかお返しをさせてとお願いされました。
私は、是非またご一緒にとお誘いしその日の海見学を終えました。
自宅に戻る道中、おじいさんはきっとおばあさんに会いたい一心だったんだろうなとお二人の仲睦まじい写真を思い出していました。
なんとも心温まる体験でした。
良いお話でした。
いい話ですなぁ。
いい事したいんですけど、なかなかチャンスがないんです。
素晴らしい!
素敵なお話
素敵です!
素敵な話だ
怖いというよりは、暖かいお話でした。
おばあさんと素敵な時間を過ごせましたね。