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呪い・祟り

シンヤさんによる呪い・祟りにまつわる怖い話の投稿です

市松人形
長編 2026/08/28 16:17 178view

――もし、あなたに「これだけは手放せない」というものがあるなら。
この話は、聞かない方がいいかもしれません。僕の友人に、柏木亮という男がいました。
中学からの付き合いで、口数は少ないけれど、笑うと目尻に皺のできる、優しい男でした。
亮は、早くに両親を亡くしていましてね。
血の繋がった身内は、田舎に住むお祖母さんだけ。
盆と正月には必ず帰省して、東京に戻ってくると決まって「ばあちゃんの味噌汁はやっぱり違うんだよなあ」と、少し照れくさそうに笑うんです。
――そのお祖母さんが、亡くなりました。

去年の、秋口のことでした。
葬儀を終え、亮は一人で遺品整理に向かいました。
古い日本家屋の、線香の匂いが染み付いた薄暗い座敷。

簞笥、写真、編みかけの毛糸――そういうものを一つずつ手に取っている時、
床の間の奥に、「それ」はありました。

市松人形。

黒々とした前髪。桜色の絞りの着物。体の前で揃えられた小さな手。
――「菊(きく)」というのが、その子の名前でした。
祖母が幼い頃から、六十年以上、大切にしてきたものだそうです。
亮は迷わず、その子を東京へ連れて帰りました。
「ばあちゃんの匂いが、まだするんだ」
そう言って、六畳一間のアパートのテレビの横に飾った。
仕事から帰ると、まず菊に「ただいま」と声をかける。

それだけで、亮の心は、ずいぶん救われていたようです。

――少なくとも、あの頃までは。

半年ほど経った頃でしょうか。
亮のアパートが、老朽化で取り壊されることになりました。
給料は決して多い方じゃない。
都内で、一人暮らしを続けるにはギリギリの暮らし。
不動産屋を何軒も回った末に、一件だけ、家賃が異常に安い物件を紹介されたそうです。
「あの……お客さん」
中年の担当者は、目を合わせずに切り出しました。
「ここね、告知義務ありなんですよ。前の入居者の方が、その、部屋の中で…ね。」

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