でも、やっぱり聞こえるんです。
『……みぎ』
それだけ。
僕は気になって、そのアカウントに初めて返信を送りました。
『誰ですか?』
既読はつきません。
もちろん返事もありませんでした。
翌日の夜。
また同じ時間に通知が鳴りました。
今度のボイスメッセージも、最初はあの音だけです。
イヤホンをつけて耳を澄ませると、昨日より少しだけ声がはっきりしていました。
『……みぎ』
少し間が空いて、
『……あと、いっぽ』
そこで録音は途切れました。
「右へ、あと一歩?」
意味が分かりません。
でも、それからというもの、僕は毎日その音声を待つようになっていました。
一日ごとに、声は少しずつ聞き取りやすくなっていったんです。
聞き慣れてきたせいなのか、それとも本当に音自体が変わっているのか、自分でも分かりませんでした。
ただ、まるで水の底に沈んでいたものが、少しずつ水面に近づいてくるような感覚でした。
『……みぎ』
『……あと、いっぽ』
『……がけ』
断片的な言葉ばかり。
文章にはなりません。
なのに、なぜか頭の中では、一人の女の人が必死に何かを伝えようとしている光景が浮かんでしまうんです。
そんなある日、塾の帰り道。
駅前の掲示板に貼られていた一枚のポスターが、ふと目に入りました。
『〇〇展望台 立入禁止』
この話は怖かったですか?
怖いに投票する 0票
























※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。