自ら手を上げたとはいえ、日勤からの疲労は蓄積している。
機械の唸る音が響く工場内で眠い目をこすりながら黙々と作業を続けていると……
「……お」
突然、背後から間の抜けた声が聞こえ、じいちゃんは振り向いた。
ちょっとした不注意だったのか、疲れが溜まっていたのか、そこには両手で抱えた荷物の重さによろめいた丸井がいた。
普通なら足を踏ん張って耐えるか、地面に転ぶところだが、運悪く、彼が倒れた先には圧延機と呼ばれる高速で回転するローラーがあった。金属の塊をローラーの圧力で薄く延ばす機械である。
――丸井の姿が一瞬にして消えた。
今ならそうした機械には人が近づけないように柵や仕切りで区切られていたのだろうが、当時は安全への意識も低く、そうした危険な場所が野放しにされていることも多かった。
工場は騒然となった。
青ざめた工場長や後からやってきた警察官に色々と聞かれたが、何を聞かれたか、よく覚えていないという。
しばらくして、圧延機から丸井の遺体が出てきたが、じいちゃんはそれを目にしても意外にも怖いとは思わなかったそうだ。
彼は何千トンという圧延機の圧力により、作業服の布と血肉が混じった平たい「何か」になっていた。
丸井本人どころか元が人間だったのか分からないほど、原型を留めていなかったため、人が死んだという実感すら湧かなかったらしい。
――その日からじいちゃんは夢を見るようになった。
あの工場で丸井が死ぬ様が、目の前で何度も何度も繰り返される悪夢だ。
それもあの事故の瞬間……丸井が転び、ローラーに飲み込まれて姿が消えるまでの一瞬の出来事が、まるで一秒が何十倍にも引き伸ばされたように、ゆっくりと再生される。
交通事故に遭った人間は、しばしば自分と車が衝突するまでの瞬間がスローモーションに見えたと語る。
それは瞬きする間もない一瞬の出来事でも、その衝撃的な内容が網膜に焼き付くためと言われている。後から、じいちゃんは医者からそんな話を聞いたらしい。
……だが、その瞬間が網膜だけではなく、鼓膜にも焼き付くとは知らなかった。
夢の中で目を覆う、とは妙な表現だが、その光景を見ないようにすることはできた。
だが、いくら耳を塞いでも、その音は隙間を縫うようにして聞こえてくる。
丸井の手首から先が圧延機に飲み込まれた瞬間、「ぱちん」という音が……指を鳴らしたような音が響く。
「ばちん」
「ぱちん」
「ぱちん」
「ぱちん」
「ぱちん」
「ぱちん」
当人はきっと一瞬の出来事で痛みを感じる間すらなかったのだろう。
音が重なるたびに人の姿を失っていく丸井の表情は、いつも通りの穏やかなものだった。

























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