翌朝、母が買い物に出た隙を見て、私は居間でテレビを見ていた父に、昭一のことを聞いてみた。母とは別に聞けば、何か違う話が出てくるかもしれないと思ったからだ。
「昭一お兄ちゃんって、病気で亡くなったんだよね?」
さりげなく聞いたつもりだったが、父は一瞬、テレビから目を離して私を見た。それから、少し間を置いてから答えた。
「病気っていうか……あれは、事故だったろう。階段から落ちて」
背筋がすっと冷たくなった。
「病気じゃなくて、事故?」
「そうだよ。お前、覚えてないのか。まあ、お前はまだ小さかったから無理もないが」
父の口調には迷いがなかった。母のときと同じだった。誰も嘘をついているようには見えない。それなのに、母は「病気」と言い、父は「事故」と言う。そして私自身の記憶の奥底には、「生まれる前に、胎内で」という、また別の死に方がこびりついている。
三人が三人とも、違う昭一の死に方を、同じように迷いなく語っている。
その夜も、耳の奥の声は続いた。けれど今度は、それだけではなかった。布団に横になって目を閉じていると、部屋の隅、視界の端のあたりに、何か黒い塊のようなものがあるような気がした。目を開けて確かめても、そこには何もない。ただ、目を閉じるとまた、さっきと同じ位置に、人がうずくまっているような影の気配が戻ってくる。
声は相変わらず何を言っているのか聞き取れなかった。けれど、その声が、部屋の隅のその「気配」から発せられているということだけは、なぜかはっきりとわかった。
## 三、内側の声
実家から戻って数日後、恋人と電話をしているときだった。他愛もない話をしながら、ふと相手の笑い声を聞いていると、頭の中で声がした。
――こんな奴で、いいのか。
はっきりと、言葉として聞こえたのはそれが初めてだった。今までの、輪郭のぼやけた響きとは違う。誰かの声が、まるで自分の思考のすぐ隣で発せられたように、くっきりと耳の奥に残った。
私は電話を切ったあとも、しばらく動けなかった。
こんな奴でいいのか、という言葉には、明らかな棘があった。値踏みするような、見下すような響き。それなのに、同じ声が、続けてこうも言っていた。
――でも、幸せになってほしい。
矛盾した二つの感情が、ひとつの声の中に同居していた。まるで、私のことを心配しているようで、同時に、私の選んだものすべてを認めたくないような。
そのとき初めて、私は気づいた。この声は、部屋の隅から聞こえているのではない。
もっと近くから聞こえている。
私の頭の中、私自身の考えとほとんど区別がつかない場所から。
## 四、隠すこと
それから、私は意識して普通に振る舞うようになった。恋人と会っているときに、頭の中で声がしても、聞こえていないふりをする。相槌を打つタイミングも、笑うタイミングも、いつも通りを装う。
けれど、完全には隠しきれなかったらしい。
「最近、なんか、ぼーっとしてること多くない?」
食事の途中で、恋人が箸を止めてそう言った。心配そうな顔だった。責めるような口調ではなかったけれど、それがかえって、私の中の何かをちくりと刺した。
「そうかな。ちょっと、寝不足かも」



























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