その時だった。
「早く乗って!!」
車内からA子が絶叫した。
「何かいる!!」
俺は冗談だと思った。
「はいはい、大丈夫だから」
タバコを携帯灰皿へ押し込み、ゆっくり運転席へ戻る。
A子は涙を流しながら震えている。
何かを小さく呟いている。
「A子?」
聞き取れない。
「何?」
A子は答えない。
そう言った俺に、A子は首を横に振った。
そして震える声で、
「……早く」
と言った。
山を下り始めて間もなく。
今度は俺の背中に、冷たい汗が流れた。
ブレーキが利かない。
フロントブレーキの感触が、突然消えた。
ペダルが――
スカスカだった。
「嘘だろ……」
下り坂。
車は重力に引かれ、どんどん加速していく。
2速へ落とす。
エンジンが悲鳴を上げる。
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