十分ほどして、二階からA子が降りてきた。
Tシャツの上にジャンパー、ジーンズ。
飾らない、いつもの田舎風女子の格好だった。
俺は立ち上がり、わざと宅配の配達員のような口調で言った。
「では、A子さんをお借りします。△山で夜景を見て、十二時頃にはお届けします」
両親が笑う。
A子は俺の肩を軽く叩き、
「行こっ」
と微笑んだ。
車は夜道を一時間ほど走り、△山の麓へ着いた。
「今日は晴れてるし、夜景きれいだろうね」
「寒そうだけど楽しみ」
車内にはDreams Come Trueの『未来予想図Ⅱ』が流れていた。
俺のお気に入りだった。
車内には、穏やかな時間が流れていた。
だが――
山道へ入って間もなく、その空気が変わった。
突然だった。
道路の向こうから、白いものが流れてきた。
霧だった。
ただの霧ではない。
まるで生き物のように、道路へ這うように入り込んでくる。
みるみるうちに視界が白く染まっていく。
「うわ……」
前方が見えない。
視界は十メートルもない。
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