俺がまだ二十代前半だった頃の話だ。
車が何よりの趣味だった俺は、休日になると愛車を走らせ、夜景を見に行くのを楽しみにしていた。
当時は女性の友人も多く、毎週のように違う女友達を助手席に乗せて、山や海へと出かけていた。
恋人ではない。
ただ気の合う友人同士で、夜景を眺め、音楽を聴きながら他愛もない話をする。
そんな時間が好きだった。
――だから、あの日も。
最初は、いつもと何も変わらない夜になるはずだった。
その日、一本の電話が鳴った。
「△山の夜景が見たい!」
電話の主はA子だった。
A子とは五年以上の付き合いになる。
頭の回転が速く、美人で、誰とでも自然に打ち解けられる明るい性格。
そして、人の悪口を言わない。
少し姉御肌で、サバサバした性格。
俺にとっては、心から信頼できる、数少ない女友達だった。
「了解。九時に迎えに行く」
それだけで約束は決まった。
夜九時過ぎ。
A子の実家へ迎えに行くと、玄関にA子の母親が出てきた。
「まだ準備に時間がかかるから、上がってお茶でも飲んで待ってて」
俺は両親とも顔なじみだった。
リビングに通されると、A子の父親が笑いながら言う。
「俺くん、早くA子をもらっちまえよ」
「勘弁してくださいよ」
そんなやり取りに、家中が笑った。
夕食の残りと思われるエビフライを食べながら、俺はA子を待った。
それは、いつもと変わらない暖かな光景だった。
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