俺のじいちゃんから聞いた話なんだけどさ。
じいちゃんのひいばあちゃん――仮にチヨって名前にするけど――は、とんでもない美人だったらしい。誰が見ても息をのむほど綺麗で、人形みたいな顔立ちだったっていうんだ。
でも、子どもの頃はそんな雰囲気なんて全然なくてさ。男の子相手にも負けないくらい活発で、村中を走り回るような普通の女の子だったんだって。
ある日、子どもたちが凧揚げをして遊んでいた。ところが風にあおられた一枚の凧が、「入るな」と言い伝えられていた山へ飛んでいってしまった。
その凧は年上の子が大切にしていたもので、「失くしたら親にひどく叱られる」と持ち主は慌てていた。
するとチヨが、「私が取ってくる」と言って山へ向かった。一人じゃ危ないと思った何人かの男の子も後を追ったんだけど、山へ入ってしばらくすると、チヨの姿が突然見えなくなってしまった。
慌てて大人を呼んで探したら、山の中の大きな木の下でチヨがじっと立っていたんだって。声をかけてもぼんやりしたままで返事もしない。
それでチヨの足元を見ると、大きな箱が置いてあった。中には反物や小判、それに季節外れの果物まで入っていたらしい。
みんなが「これ、どうしたの?」って聞くと、チヨは「神様にもらった。返そうとしたけど受け取ってくれなかった」って答えたんだって。
それからチヨは年を重ねるたびに、誰もが目を奪われるほど美しくなっていった。同じ頃から村では、「チヨは十五歳になったら山の神様の嫁になる」という噂が広まっていった。
村人たちは、「神様が嫁に迎えるために、美しく整えているんだ」と、その噂を本気で信じるようになった。
デクは、その噂を頭から信じていたわけじゃなかった。
それでも、村人たちが噂を真に受け、チヨを神様へ差し出そうとするかもしれない。そう考えると黙っていられず、仲間に協力してもらい、チヨを連れて村を出たんだ。
数日後、新聞には村が山崩れで全滅したという記事が載っていた。
デクもチヨも何が起きたのか分からず呆然としたけど、それでも新しい土地で暮らしていくしかなかった。
それから二人は夫婦になり、子どもにも四人恵まれた。
だけど、ある時デクは気づいたんだ。
「あれ……チヨが全然老けてない」
それどころか、年を取るほど若返るみたいに美しくなっていったらしい。子どもたちが大人になる頃には、近所で知らない人がいないくらい有名になっていたそうだ。
でも、綺麗すぎるせいで逆に怖がられることもあった。
息子の祝言の日も、嫁の実家から「チヨさんには席を外してほしい」と頼まれたらしい。あまりにも人間離れした美しさだから、縁起が悪いと思われたんだって。
そんなある日、チヨがデクに「そろそろお別れだね」って言ったんだ。
理由を聞くと、「山の神様に呼ばれてる」って。村を出ても、結婚しても、子どもを産んでも、毎晩神様の声が聞こえていたらしい。「今度帰らなかったら、孫娘を連れていく」昨晩、とうとうそう告げられたんだって。
だからチヨは、「あなたと一緒に逃げて、幸せな人生を送れたことに感謝してる」って言い残して、姿を消してしまった。
それ以来、チヨを見た人はいない。
デクは必死に探し回ったけど、結局どこにも見つからなかったそうだ。近所では「別の男と逃げたんだろう」なんて下衆な噂も立ったらしい。
でも、デクだけは最後まで、「チヨは家族を守るため、自ら山の神様へ身を捧げたんだ」って信じていたんだって。
この話、じいちゃんは自分の母ちゃんから聞いたらしい。
写真も残っていたそうなんだけど、火事で全部燃えちゃったんだってさ。
もし本当なら、そんな美人、一度くらい見てみたかったよな。
























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