数年前の出来事です。
当時、結婚を考えていた彼氏と別れたばかりだった私は、自分の人生の先行きに不安を覚えていました。
そして友人の勧めもあり、初めてマッチングアプリに手を出しました。
マッチングし、会うことになったのは同年代(20代半ば)の会社員の男性でした。
自分の肩書きや経歴をずらりと並べ、綺麗に撮られた写真をプロフィール写真にしている男性が目立つ中、その方は趣味を羅列したあっさりとしたプロフィールで、写真も釣りをしている最中に同行者にささっと撮られたような写真で、そのカジュアルさに「この人なら会うことになってもそこまで緊張しないかも」と思いました。
そうしてマッチングに至りました。
その方は「タナカ」と名乗りました。
数回メッセージのやり取りをしましたが、メッセージはこれといって変わったことはありませんでした。
異変を感じ取ったのは実際に会うことになった時です。
タナカさんは写真の印象よりもずっとハンサムな方で、しかもよく笑う方でした。
私が高いお店は居心地が悪くて苦手だと話すと「この辺にあるオムライス屋さん、のんびり過ごせてオススメなんですよ」と言ってオムライス屋さんに連れて行ってくれました。
この時点ですごくいい感じの人だなあと好印象を持ってはいたのですが、それ以上になんだか“嫌な感じ”がしました。それはタナカさん本人ではなく周囲からひしひしと感じるのですが、どうもタナカさんが私と何かを話す度にその“嫌な感じ”が強くなるのです。
それはオムライス屋さんで昼食を摂り始めてからどんどん強くなりました。
「あの、変なこと聞きますけど、幽霊とかって信じます?」
突然タナカさんにそんなことを言われました。
私は正直に
「うーん、娯楽としてそういうコンテンツを見るのは好きですが、信じてはいないです」
と笑いながら答えました。
この時のタナカさんの嬉しそうな、安心したような表情は今でも忘れられません。
「よかった。それなら大丈夫かもしれません。いや、実はですね……」
そう言ってタナカさんは、あることを話してくれました。
「僕は長いことマッチングアプリをやっているのですが、これまでに実際に会えたのはあなただけ。その他の女性は事前に電話をした時点でお断りされてしまったんです」
タナカさんはこれまではマッチングした女性と会うことが決まると、声色で互いの人となりを知っておきたいという理由から必ず通話をしていたそうです。
しかし、それまでのメッセージで意気投合した女性も、通話をした後に断られたりブロックされたり、酷い時には暴言を吐かれて電話を切られたりしたそうです。
「それである日、同じように電話した方に聞いてみたんですよ。これこれこういうことがあって、何故か電話の後に断られてしまうって。そしたらその相手の方が言ったんです」
『タナカさんと電話してると、赤ちゃんの泣き声とそれをあやす高齢女性の声が聞こえる』
「おかしいと思いましたよ。だって僕にはそんなの聞こえませんからね。近所にそんな赤ん坊を連れた家族も住んでいませんし。お恥ずかしい話ですが、これまでに女性とお付き合いしたことも、それこそ身体の関係を持ったこともありません。そういう恨みを買う可能性もない人生を歩んできたので……」
タナカさんはその後、知り合いのツテで霊媒師と連絡を取ったのだそうです。
しかし、これといって霊的なものはいないと言われたそうです。
「とにかくこの一件があってから、女性と事前に電話をするのはやめました」

























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