この男性の課長さん、つまりXさんはいわゆる敏腕のシゴデキなのだが、口汚く部下を罵るパワハラ上司として有名だった。女性の部下とは穏やかに話すのだが、他の男性社員にはいつも厳しい態度で接していた。
私がX課長にあの灰色ネコが社外の女性に轢かれてしまったことを話すと、彼は露骨に顔をしかめた。それから憂いの表情を浮かべ、困り果てた顔で、
「僕なら、そんなものよう見られえへんわ。」
と、小さな声で言った。
すぐさま営業所の社員全員が事務室に呼び出され、誰があの灰色ネコを市のゴミ集積所に持っていくかと、話し合いが始まった。
営業所にいた社員さん達はみな困惑した様子で、互いに顔を見合わせたり、近くの者同士で小声で相談を始めたりしていた。なにせ、あのネコさんの身体の一部は千切れ、血だらけの見るに堪えない姿になっているのだ……!それでも誰かが後始末をしなければならないので、私は「自分がやります」と勇気を出して挙手した。
X課長は私に「女性はやらなくてもいいよ」と言い、結局、この日は男性社員のWさんが後始末をすることになった。貧乏くじを引かされたWさんを可哀想に思ったのか、屈強そうなUさんと Yさんがヘルプに加わった。X課長がいないところで、この頑健な3人の男性と他の社員さん達が、「X課長がやればいいのに」とボヤいていた。そりゃそうだ、課長の小心者め。
その可哀想なネコさんは新聞紙を敷き詰めたダンボール箱の中に入れられ、WさんとUさんによって市のゴミ収集課に運ばれていった。なおさら心証が悪いが、彼(彼女)は多分きちんと弔われることもなく、【廃棄物】として焼却処分されたのだろう。
その他の男性社員さん達は、ネコさんが斃れていた現場の掃除をさせられていた。まだ幼いネコの身に起きた惨事に遭遇してしまった私もしばらく気分が悪かったが、WさんとUさんは営業所に帰ってきた後、嘔吐したらしい。
運悪く動物と接触事故を起こしてしまうのは、よくあることだ。野生動物や犬猫とぶつかってしまった場合は、忙しさを言い訳にせず、できる限り自分で警察と道路緊急ダイヤルに連絡してほしい。一刻も早い通報で、二時的事故を防げるのだから。
話がガラリと変わるようだが、呪いって本当にあるのだろうか?存在するのかしないのか私には分からないが怖い。呪われたくない、祟られたくない。
私は運悪くあの凄惨な事故現場の全てを見てしまい、数日間ビクつきながら過ごした。母には「あんたは何も悪くないよ」と慰めてもらったが、私はあの灰色ネコさんの為に何もしてやれなかった。助ける力がまるでなかった。結果として、見殺しにしたと言っても過言ではないかもしれない。私はあまりに陰惨な出来事を目の当たりにしてしまったので、ショックのあまり、あの仔ネコのことをすっかり忘れてしまっていた……。
ところで、あの灰色ネコさんは、今際の際に何を思ったろうか?
あの当て逃げ女(猫轢き逃げ犯)を決して許すまいと、宿怨をこめた目で、逃げていくあいつの車のナンバーを凝視していたのか。それとも、車の中でただ茫然としている私に助けを求めていたのか。【死力を尽くして『生きたい』と叫んでいるのに】、何もしてくれない人間という生き物に、改めて遺恨を抱いたのか……。
あの無責任なネコ轢き逃げ犯一人のために、他の多くの人間が、もどしてしまう程辛い作業を無報酬でさせられた。だが、あの小さな灰色ネコさんはまさにとんだ災難を被り、苦悶の中で短い生涯を閉じなければならなかった。さぞ、無念だったろう。本当はもっと生きたかったろう。
【消え入る間際の声】というのは、人間でもネコでも表すものは同じだと思う。痛苦に苛まれ、喉の奥から絞り出すように発した声であっても、当人にとっては、「もっと息をしたい」「もっと命がほしい」という切実な想いを表したものなのだから。生への執着を持たない生き物なんて、この世にはいないのだから。


























沈丁花です。3月30日に加筆修正をしました。
沈丁花です。4月15日に再度加筆修正をしました。投稿者(未熟ながら作品を作り上げるもの)なのに情けないです。重ね重ね申し訳ありません。ここが「怖い」を取り扱う場所なのでそりゃそうかもしれませんが、これまでの自分の作品を振り返ると、「死」と関連のあるものが多いと感じました。
沈丁花です。先程の「未熟ながら作品を作り上げるもの」とは、私自身のことです。投稿者の方全体を指しているのではありません。言葉足らずで申し訳ありません。もう、そそっかしいのもええ加減にせい、私のバカ🥶😰