世界は二つに分かれています。
私は、川の向こう側の学校に通う、どこにでもいるような中学生。
作文なんて、先生に褒められたこともないし、全然得意じゃありません。
けれど、今この瞬間、私のペンが勝手に紙の上を踊るのです。
書かないといけない。書くことでしか、私は私を「繋ぎ止めて」おけないから。
放課後の教室は、死んだ魚の目のような静寂に包まれています。
みんなは帰りました。……いえ、「帰された」のかもしれません。
机は定規で測ったように整列していて、鞄の一つも残っていない。
でも、廊下の奥から聞こえるんです。
低くて、ドロドロに溶けた鉛のような、誰かの怒鳴り声。
何を言っているのかは、私のような「選ばれた耳」にしか届かない旋律。
逆らうなんて、そんな野蛮なこと、考えるだけでも汚らわしい。
教壇の上に、一冊の本が横たわっています。
夜を固めたような、深い黒。
指を触れると、氷よりも冷たい。なのに、私の指先は熱く疼いて、感覚が溶けてなくなっていく。
怖い? いいえ、これは運命なんです。
開かなければいけない。それが、この物語のルールだから。
中には、繊細で、残酷なほど美しい文字が並んでいました。
「世界は二つに分かれています」
その字を見て、私は少し笑ってしまいました。
だって、それは私の字だったから。
いつもノートの端っこで先生に「もっと丁寧に書きなさい」って叱られる、左に少し傾いた、私だけのサイン。
でも、書いた記憶なんて一秒もありません。
きっと、私の「魂」が、私の知らないところで綴ったのでしょう。
私は、聖壇(教壇)の前に立ちます。
先生はいません。でも、喉の奥から銀の鈴を転がすような声が出るんです。
「世界は二つに分かれています」
その言葉を口にするだけで、胸のあたりが「正解」だと叫んで、とても楽になる。
ほんの少しでも疑えば、肺の中に針が刺さるみたいに苦しくなる。
前に一度だけ、「これっておかしくない?」なんて、低俗な疑問を持ってしまったことがありました。
その瞬間、空気が消えて、廊下の声が鼓膜を破らんばかりに咆哮したんです。
だから、疑いは「罪」なんです。疑いは「汚れ」なんです。
























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