「もう年老いて耄碌してはいますが……当時のことは、昨日のように思い出せます」
――我々は、女性に都市伝説の概要を説明した。
女性は困惑したような顔でしばらく考えこんでいたが、やがてゆっくり口を開いた。
「……まず、学校に焼夷弾が落ちたとか、そういったことは一切なかったと記憶しています。
機銃掃射はありましたけれど、校舎から外れてプールに命中しただけでした。
飛沫が上がって、とても恐ろしい思いをしましたけど、それで誰か怪我をしたとか亡くなったとかいう話はなかったはずです」
――噂はただの噂だった、と。
「ですけれど……その……幽霊ということでしたら、心当たりがまったくないわけではありません」
――えーと……それは、この噂と関係がある?
「あると思います。ただ……荒唐無稽な話ではあるのですが」
――ぜひお聞かせください。
「……戦中の学校では、武運長久・敵国調伏を祈る儀式を行っていたことはご存じ?」
――初めて知りました。
「あの機銃掃射があった日、迎撃に出てくる友軍機も見えなかったので、また来たら今度こそやれられるという危機感がみんなにありました。
そこで、クラスの誰かが「お祈りをしよう」と提案したんです。
祈りの力で艦載機を迎撃しようと。
今考えると馬鹿馬鹿しく思われるかもしれませんが、なにぶん、ああいう時代でしたので……
一人が手を合わせて祈り始めると、他の子たちもつられるように真似をしだしました。
私も一緒になって怨敵退散を祈っていると、声が聞こえてきたのね。
ぼそぼそささやくような声。
最初はお念仏かお題目かな、と思ったんですけど、違うんです。
「お兄ちゃん……お兄ちゃん……助けて……」
佐藤さんだったかしら……
確か、お兄さんが召集されて――特攻隊員として亡くなったという話を聞いていました。
祈る対象は違えど、みんなの想いはひとつでした。
何秒か、何分経ったのかはわかりませんが、不意に外から爆音が聞こえてきました。
ものすごい衝撃で、建物が震えて……みんなが肩をすくめました。


























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