暫く歩き続けると次第に雨は弱まり、今度は霧が立ち込めてきた。
ただの霧ではない。濃霧である。
数分も経つと、1m先も見えない程の霧が私達を憚る。自分達がどこを歩いているか分からない程だ。
先程の豪雨とはうって変わり、辺りは静寂に包まれていた。
雨に濡れた事もあり、身体はすっかり冷え切っていた。降雨前の蒸し暑さが嘘のようである。
完全なホワイトアウト現象であった。
たまらず、渡辺が声を上げた。
「屋久島は霧が頻繁に出るとは聞いていたけど、まさかこれ程とはな。何も見えないよ」
「さっきの雨とこの温暖差のせいだな。闇雲に歩き回るのも危険だし、少しここで待った方がいい。渡辺、どこにいる?手を伸ばしてくれないか。離れないようにしよう。」
私は渡辺の手を握ると、渡辺も強く握り返した。
低体温症も危惧していたが、何より、この視界不良の中、足を挫く等の怪我をする事を避けたかった。
私達はその場へ腰を下ろし、霧が晴れるのを待つ事にした。
「懐中電灯を使うか。くそ、ザックの下の方に入れちまった。渡辺、寒くないか?大丈夫か?」
「ああ、俺は大丈夫だ。それよりすまない、少し催してきたみたいだ、ちょっと立ち小便してくる。」
渡辺のこの言葉に、幾分か緊張感が和らいだ。
「おいおい、こんな時に小便かよ。見えないからって、頼むからこっちにかけてくれるなよ。」
分かってる、と渡辺は笑いながら言うと、霧の向こうへ消えていった。足音だけ遠ざかっていく。
–––しかし、こんな霧は初めての経験であった。仕事柄、山等でのフィールドワークは何度も行ってきたがこれも屋久島の洗礼であろうか。
–––今、自分達は遭難してしまっているかもしれない。
ふと、そんな考えが脳裏を過ぎった。
霧によるホワイトアウトが無駄に不安を掻き立てる。
–––いや、そんな事はない筈だ。地図を見ながら歩いてきたし、迷わないよう、今こうして待機しているのだ。
そんな事を考えながら、冷える身体を温める為両腕で全身をさする。
ジャケットが擦れる音が、シャカシャカと頼りなさそうに辺りにこだまする。
「待たせたな。」
突然耳元で聞こえた声に、思わず驚いてしまった。
いつの間にか、渡辺が帰ってきたようだ。
声の方に目をやると、霧のせいで見えづらいが、彼の赤いジャケットがぼんやりと浮かんでいる。
「道が分かったんだ。ここにいると危ないから、こっちへ行こう。」
渡辺はそう言い歩き出すが、私は待ったをかけた。
























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