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不思議体験

翔真さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

霧の中で
長編 2026/02/20 19:02 178view

暫く歩き続けると次第に雨は弱まり、今度は霧が立ち込めてきた。 

ただの霧ではない。濃霧である。

数分も経つと、1m先も見えない程の霧が私達を憚る。自分達がどこを歩いているか分からない程だ。
先程の豪雨とはうって変わり、辺りは静寂に包まれていた。
雨に濡れた事もあり、身体はすっかり冷え切っていた。降雨前の蒸し暑さが嘘のようである。
完全なホワイトアウト現象であった。

たまらず、渡辺が声を上げた。

「屋久島は霧が頻繁に出るとは聞いていたけど、まさかこれ程とはな。何も見えないよ」

「さっきの雨とこの温暖差のせいだな。闇雲に歩き回るのも危険だし、少しここで待った方がいい。渡辺、どこにいる?手を伸ばしてくれないか。離れないようにしよう。」

私は渡辺の手を握ると、渡辺も強く握り返した。

低体温症も危惧していたが、何より、この視界不良の中、足を挫く等の怪我をする事を避けたかった。
私達はその場へ腰を下ろし、霧が晴れるのを待つ事にした。

「懐中電灯を使うか。くそ、ザックの下の方に入れちまった。渡辺、寒くないか?大丈夫か?」

「ああ、俺は大丈夫だ。それよりすまない、少し催してきたみたいだ、ちょっと立ち小便してくる。」

渡辺のこの言葉に、幾分か緊張感が和らいだ。

「おいおい、こんな時に小便かよ。見えないからって、頼むからこっちにかけてくれるなよ。」

分かってる、と渡辺は笑いながら言うと、霧の向こうへ消えていった。足音だけ遠ざかっていく。

–––しかし、こんな霧は初めての経験であった。仕事柄、山等でのフィールドワークは何度も行ってきたがこれも屋久島の洗礼であろうか。

–––今、自分達は遭難してしまっているかもしれない。

ふと、そんな考えが脳裏を過ぎった。

霧によるホワイトアウトが無駄に不安を掻き立てる。

–––いや、そんな事はない筈だ。地図を見ながら歩いてきたし、迷わないよう、今こうして待機しているのだ。

そんな事を考えながら、冷える身体を温める為両腕で全身をさする。
ジャケットが擦れる音が、シャカシャカと頼りなさそうに辺りにこだまする。

「待たせたな。」

突然耳元で聞こえた声に、思わず驚いてしまった。
いつの間にか、渡辺が帰ってきたようだ。
声の方に目をやると、霧のせいで見えづらいが、彼の赤いジャケットがぼんやりと浮かんでいる。

「道が分かったんだ。ここにいると危ないから、こっちへ行こう。」

渡辺はそう言い歩き出すが、私は待ったをかけた。

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