私「何か分かりましたか?」
M「このドライブレコーダーの映像、途切れる直前山の中を走ってますね。この◯◯行きのバスはこんな山の中走ってないはずなんです。」
私「ドライブレコーダーの映像に、この山の中へ行くための道が映っているかもしれません。ちょっと確認しますね。」
ドンピシャだった。道が映っている。
私「なるほど、この山は◯◯行きのバスの終点から約40分程車で走った所にある様です。此処はA山という山みたいですね。今度私が行ってみます。」
M「…良いんですか?」
私「ええ、私が行きたいだけなので。そもそも怪体験談を募集した私の責任ですし。」
M「…ありがとうございます。」
後日、私はA山に向かった。…件のバスに乗って。Mさんが言っていた通り、前の方にあるその座席は少しだけ黒く、煤けていた。でも、私はとある疑問が頭に浮かんだ。
私「あのバスは全焼し、このバスは別の車両なのになぜこのバスに焦げた跡がついているんだろう…」
私はこの煤けた座席の過去を知りたい。気付くと私はその座席に手を伸ばしていた。そして触れた瞬間、私の脳内にとある映像が流れ込んできた。
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私は、小さい頃から母親に虐待されてきた。言われた通りの事をやらないと怒鳴られ、殴られる。言われた通りの事をやっても、「もっとこうしろ」とか「その程度の事しか出来ないのか」と殴られる。おかげで、常に身体中痣だらけだった。私には、海斗という弟がいるのだが私より酷い虐待を受けていた。父親にこの事を話しても、軽く受け流されるだけだった。
その後成人したタイミングで、都会に一人暮らしを始めた。海斗の事は本当に申し訳なかったが、一人暮らしは忙しかったものの今までの苦しみから解放され、とても気が楽な生活だった。…そんなある日、「母が死んだ」という連絡が父からきた。父は悲しんでいた様だが、私はそんな感情は微塵たりとも感じなかった。私を殴り、怒鳴り散らかしていたあの母親が、呆気なく死んだ。死因は末期の癌だった様だ。
数日後、母親の葬式に向かった。葬式に弟は来ていなかった。仕事が忙しかったのだろう。母の顔を見た時、あまりにも表情が無かった為笑いそうになった。笑うのをぐっと堪え、その日久しぶりに実家に泊まった。父から火葬の手続きを手伝えと言われた為、二週間程実家で過ごす事になった。
あっという間に二週間が経ち、手続きも大体終わった。今日はやっと自宅に帰る日。父はバスの運転手をしていて、丁度帰りは父の運転するバスだった。その日は休日、田舎なので私以外に乗客はいなかった。私は夕暮れ時の景色を見ながら、父に気付かれない様に持ち込んだ…いや、気付いていただろう。じゃなきゃこんな山中をバスが走る訳がない。でも、そんな事はどうでも良かった。母の顔を思い出し、笑いが込み上げてくる。そしてガソリンを頭から被って、ライターの火を灯した。
『地獄で苦しめ。』
…益岡 茜は、27歳という若さで人生の幕を閉じた。
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気付くと終点に着いていた。私は道中で買った花束を持って、A山に歩き出した。A山に着き花を供え、私は手を合わせると無意識に涙を流していた。
数日後、Mさんに話をしたいと連絡を取ると「今回は僕の家でも良いですか。」と返信が来た為、私はMさんの自宅へ向かった。
M「遠い中ありがとうございます。」
私「いえいえ、とんでもないです。お邪魔します。」
そして私が体験した事を全て話すと、Mさんは静かに涙を流していた。
私「…大丈夫ですか…?」
M「…何となく、分かっていました。…本当に…本当に貴方には申し訳ないです…。そして僕は…」
私「…はい?」
(M)益岡 海斗「あの日、母の葬式に行かなかった事を、もの凄く後悔しています」
…そう言う彼は涙ぐみながら、ガソリンとライターを手に取った。






















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