Bさんが言った。
「ねえ。あなた、今匂いしてるよ」
——え?
「線香。あなたの服から。けっこう強い」
Aさんが頷いた。「前のライターさんもそうだった。取材に来た三回目から匂いが移ってた」
——移る?
「見つけた人から、話を聞いた人に移るんだと思います。だから俺、この話を人にしたくなかった。でも——もう我慢できなくて」
Bさんが付け加えた。
「あのライターさんね、最後に会ったとき、おかしなこと言ってたの。”歩道橋の上で、全員があれに見えてきた”って。周りの人間全員の層が違って見えるって。誰が普通の人で、誰があれなのか分からなくなったって」
━━━ 取材ノート断片 ━━━
2/XX 20:00 Aさん・Bさん 合同取材
・体験者ごとに「それ」の現れ方が異なる
・匂いの種類も身体感覚も違う
・共通点:歩道橋、人混み、「見つけてしまう」
・前のライター:「全員があれに見えてきた」
→識別不能。正常な人間と「それ」の区別がつかなくなる
・匂いは「移る」。見つけた人→話を聞いた人へ
・俺の服から線香の匂い。Bさんに指摘された
・……つまりこの取材自体が感染経路か
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第四部 侵食
現地調査から四日目の朝。
目が覚めて、最初に気づいたのは匂いだった。
部屋の中が、線香臭い。
窓は閉めていた。近隣に寺はない。エアコンのフィルターを確認した。異常なし。
匂いの出所を探した。
枕だ。
枕に顔を近づける。線香の匂い。そしてその奥に——甘い腐臭。歩道橋と同じ匂いが、俺の枕に染みついている。























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