━━━ 取材ノート断片 ━━━
2/XX 16:22 歩道橋上、単独調査
・16:15頃、中央付近で「それ」を視認
・Aさんの言う「層が違う」を体感。正確な表現
・顔を記憶できない。すれ違った直後に消失
・男女不明。年齢不明。服装すら曖昧
・線香の匂い。鼻腔内部から。外部刺激ではない
・右肩の重さ+体温。Aさんの証言と一致
・光の異常:右側の空間が影を作っていない
のに光を遮断。矛盾
・「そこにいる」としか言えない
・周囲の通行人、完全に無反応
・俺だけが感じている——
いや、正確には
「それ」が俺に感じさせている
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第三部 再取材
現地での体験をAさんに報告した。彼は驚かなかった。
「やっぱり、あなたにも見えたんですね」
——「見えた」?
「あいつ、人を選ぶんです。渡る人全員じゃない。特定の人間にだけ見える」
そしてAさんがもう一人紹介してくれた。
体験者Bさん。仮名。五十代女性。近隣のクリーニング店勤務。
Bさんの証言は、Aさんと微妙にズレていた。
「あたしも見つけちゃったんだよね。もう二年前。あの歩道橋で」
——二年? Aさんより前だ。
「匂いはするよ。でもあたしの場合は線香じゃないの。泥の匂い。雨の日の河川敷みたいな」
——右半身の重さは?
「重さは感じない。代わりに——手を握られる。左手。歩道橋を渡ってる間だけ、誰かがあたしの左手を握ってる」
——怖くないんですか。
「……最初は怖かった。でもね、握り方が優しいの。子供みたいな、小さい手で。引っ張るんじゃなくて、ただ握ってるだけ」
三人の体験を並べてみる。全員が「人混みの中から一人を見つけてしまった」という入口は同じだ。だがその後の現れ方が、三人とも違う。Aさんは線香と甘い腐臭、右半身の重さ。Bさんは泥の匂い、左手を握られる。俺は線香と右肩の重さ。同一の存在なのか、複数いるのか。それすら分からない。

























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