床に大人くらいの大きさのゴキブリがいる!
でもよく見ると、それは父だった。
上下黒いジャージに背中にはプラ板を黒塗りして作った二枚の羽を付けていて、
バーコード頭にはご丁寧に二本の触覚が付いている。
母はホウキを持ってくると、
「このバカは、こんなところでなにしてんのよ」と言いながら力任せに何度も叩きだした。
ゴキブリ(父)は腹這いのままシャカシャカと手足を動かしながら台所から出ていった。
※※※※※※※※※※
父の奇妙な行動は、ここから始まった。
それまでは日がな一日ソファーに寝転がっていたのが、それからは神出鬼没、家のあちらこちらに現れるようになった。
台所や洗面所の床、冷蔵庫の前、部屋の片隅など、おおよそゴキブリのいそうな場所に、あの奇妙な格好で現れるようになった。
そして文句を言うと、シャカシャカとどこかに行ってしまう。
食事も一緒にしなくなった。
どうやら深夜に冷蔵庫を開けて、野菜やら肉やらをそのまま食しているようだ。
お腹は大丈夫?
ある時は、どうやってしてるのか壁に張り付いていたこともあった。
こうなるともはや母も私も呆れてしまって、というか恐怖さえ感じるようになり、父には一切干渉しなくなった。
※※※※※※※※※※
そして秋が過ぎ、いよいよ冬突入という頃になって、父はあまり現れなくなった。
ググってみるとゴキブリは冬眠しないらしく、冬は暖かいところを探してじっとしているらしい。
一度だけ母と一緒に探してみたら和室押入れにある布団の隙間に潜り込んで、じっとしていた。
ただ父がゴキブリになってくれたので夫婦喧嘩はなくなり、おかげで勉強に集中出来るようになった。
そして翌年、私は晴れて志望校に推薦合格出来た。


























※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。