ある日、俺のノートがなくなった。
探してもどこにもない。
翌日、机の中に戻っていたけど、ページの端が不自然にざらざらしていた。
めくると、ところどころの行が欠けている。
まるで誰かがそこだけちぎって食べたように。
放課後、松田の机の上に、俺のノートの紙片が落ちていた。
湿って、指にくっついた。
鼻を近づけると、少しだけ、唾液とチョークの混じった匂いがした。
俺は何も言わずにノートを閉じた。
帰り道、どうしても気になって、松田の家のほうを遠回りしてみた。
夕方、通学路の角にある古いアパート。
カーテンの隙間から、白い紙が部屋中に散らばっているのが見えた。
天井まで貼りつけられたノートの紙。
その中心で、松田が何かを食べていた。
両手で紙を丸め、ぐちゃぐちゃに噛みながら、笑っていた。
二学期になって、松田は少しやせた。
頬がこけて、目の下が黒い。
でも笑うと、歯が白く光っていた。
ある日、休み時間にそいつが俺の席に来て言った。
「このページ、おいしかったよ」
見ると、俺の国語ノートの二十ページ目を指していた。
確かに、そこは数日前に書いたところだった。
「何言ってんだよ」と言いながらページを開くと、
真ん中が丸く抜けていた。
ちょうど、文字の「私」という字を食いちぎったように。
その日から、俺の書く文字がところどころ消えるようになった。
宿題を出すと、先生に言われる。
「途中、文章が抜けてるぞ。書き忘れか?」
でも俺は確かに書いた。
書いたはずのところだけ、紙の下の層ごと薄くなっている。



























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