俺のクラスには、一人だけ、どうしても気味の悪いやつがいた。
名前は仮に「松田」としておく。
そいつは、紙を食べる。
最初にそれを見たのは一年の春だった。
授業中、前の席で何かをもぐもぐ噛んでいる。
菓子でも隠し食いしてるのかと思って覗き込んだら、ノートの端だった。
白い紙をちぎって、ゆっくり噛んで、飲み込んでいた。
「うわ……なにしてんだよ」
そう言うと、松田は振り返って笑った。
「味、ないけど落ち着くんだ」
そのときはまだ、冗談のつもりかと思った。
でも、そいつはそれを毎日やっていた。
授業中も、休み時間も、誰も見ていないときに、紙を口に入れる。
ノート、プリント、チラシ。なんでも。
周りも最初は笑ってたけど、すぐに慣れて、
「松田って変だよな」で済ませるようになった。
俺だけが、どうしても気になった。
というか、近くにいると落ち着かない。
その噛む音が、耳に残るんだ。
紙を噛むはずなのに、ぐちゅ、と湿った音がする。
夏休み前くらいから、そいつの“食べるもの”が変わった。
紙以外にも、ティッシュ、白い花、時にはチョークの粉まで舐めていた。
「白いのがいいんだ」
本人はそう言って、黒板の隅に落ちたチョークのかけらを拾って、舌で転がした。
誰かが注意しても、松田は笑うだけだった。
「俺さ、前に医者行ったんだけど、“異食症”って言われた。
でも治らなかった。
白いの見てると、なんか中に入りたくなるんだよ」
その“中に入りたくなる”という言葉が妙に引っかかった。
それから、俺はできるだけ松田を避けるようにした。
でも同じクラスだ。席替えでもなぜか近くなる。
机を少しずつずらしても、次の日にはまた元の位置に戻っている。
























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