年越し蕎麦の代わりにスーパーで買ってきた109円のカップ蕎麦を食い、
298円で買ってきた安酒を飲みながらだらだらと紅白を見ていた。
ふと見ると、食い終わったカップのフチに小さめのハエがちょこちょこ歩いていた。
「・・・なんだ・・・珍しいもんだな。こんな真冬でもハエって出るもんなんか・・・」
そうつぶやきながら叩きつぶしてやろうとするが、パッと飛び立って逃げてしまった。
「フン、どうせこのオンボロアパートの一室に、他に食いもんなんかありゃせんわ」
家賃3万円、風呂ナシ、トイレ・流し共同の6畳一間のこの部屋には、もうハエが生き延びるだけの食料もない。
だから、どうせまたしばらくしたらカップのフチに戻ってくるだろうと予想した。
そしたら、今度こそつぶしてやろう・・・そう思った。
だが、次にハエが止まったのは、自分の手の甲だった。
なんだかちょろちょろとくすぐったいので気が付いた。
「ヤロウ・・・!」ピシッと叩いてみたが、ハエはまた逃げる。
しばらくすると今度は自分の目の前をスーっと飛んでいく。
まるで自分にまとわりついているかのようだ。
「コイツ、部屋ん中が寒いからって、オレの体温であったまりに来とんのかもしれんな」
そう思ったから、次にハエが腕の辺りに止まったときには、一瞬叩くのを躊躇した。
一寸の虫にも五分の魂・・・この寒い冬に、まだしがなく生きている小さな命が、自分と大差ないようにも思えた。
が、次の瞬間にはハエをビシっと叩きつぶした。所詮、虫である。
「なんもこんな寒いなか出てこなければ、生き永らえたもんを・・・」
そう言いながら叩いたハエをのぞいてみた。
ギョッとした。
ハエは、予想以上に大量の真っ赤な血を周囲にまき散らしてつぶれていた。
血を吸った後の蚊でもあるまいに、どうしてこんなに赤い血を流しているのか、困惑した。
汚れた手を新聞紙で拭いていると電話が鳴った。
田舎の妹からだった。
「おう、元気しとったか。今年は帰れんで済まんのぅ」そう挨拶したが、
どうも妹の様子がおかしい。
弟が死んだらしいと、警察から電話があったのだという。
翌日、正月早々長野へ向かった。
弟は板前をやりながら一人全国を旅していた。
実家にも帰らず、今どこにいるのかも向こうから連絡がこない限りわからなかった。

























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