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ヒトコワ

沈丁花さんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

爽やかな人、その仮面の下は
長編 2025/12/26 13:43 466view

 

 お金は減るし、このままでは俺まで病んでしまう。俺はとうとう腹をくくって、友人のYさんの助言どおりに、上司と実家の親と警察の生活安全課に相談することに決めた。

 俺はまず実家に電話し、Pとのことを正直に話した。それから直属の上司に電話でPに嫌がらせをされていることを打ち明け、面談の時間をいただいた。警察の担当の方にもPからのメールやメモを見せ、心ゆくまで話を聴いてもらい、俺は泪が出るほど安心した。

「オレの高校の同級生が警察のお偉いさんになってるんだ。だから、オレは何をしても大目に見てもらえるんだぜ。」
とPはよく豪語していた。

 しかし、婦警さんに警察のお偉方だって友人ぐらいいるが、友情に免じて特別に罪を軽くする人などいないと言われ、俺はいかにPに惑わされていたか痛感した。

 

 

 婦警さんと話が終わった後、俺は念のためにタクシーでビジホに逃げた。一方、Pはその日も俺のアパートの近くで待ち明かしていたという。そして、やつは案の定長いことわめき散らしており、2名の警官にこんこんと宥められたという。

 

 

 その翌日、Pと俺は2名の上司の前で詳しくトラブルの内容を話した。俺は反省文を書いたり、最悪の場合なにかの懲罰を受けたりすることを覚悟していたが、この二人のお偉いさんの温情で事なきを得た。俺は情け深い指導者に恵まれたことを、心から感謝した。対照的に、俺への嫌がらせ行為を繰り返したPは、始末書と誓約書を書かされた。

 

 

 

 その後Pは遠方の営業所への転勤を命じられ、俺と会わないようにしてもらった。俺もお盆休みを利用して引っ越しをし、忌まわしいアパートとさよならをした。無論、Pのような人間がこのようなペナルティーで懲りるはずがなく、異動先でも他の社員さんを困らせていたと聞いた。結局、彼は翌年の3月で雇用契約を打ち切られた。

 

 

 Pは正社員になりたかったらしい。確かに彼は成績優秀で、お客様からの信頼も厚かった。だが、メンタル面が不安定であまり若くもないことから、契約社員に留められていた。のちに他の社員さんから聞いたのだが、前職でも同僚といさかいを起こし、会社にいづらくなって退職したらしかった。

 

 

 本人の名誉のために補記するが、Pには独特の正義感があり、他の人の手柄を奪うことは絶対にしなかった。ただし、俺の部屋で過ごすことで、自分のお金が減らないようにしていた、本人いわく、Pと俺はよく似た魂を持っているので、二人なら友情を”究極の絆”にまで昇華させられるという。しかしながら、俺は口の上手いPを信じられず、逃げ出した。彼は俺を共依存にさせ、Pの為なら惜しみなく私有財産をさしだすようにしたかったのだろう。また若く、家族が元気な俺に内心嫉妬しており、俺を会社の福利厚生の一部として利用してやろうと考えていたのだ!

 

 

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 Pのご両親は若い頃は不仲で、幼いPの前で互いに殴り合ったり、ものを投げつけ合ったりしていたそうだ。

 Pの年の離れたお兄さんは正確に言うと先妻さんの子であり、彼が全寮制の高校に入ってからはあまり会わないらしかった。

 大人になってから、Pはお母さんと和解できたらしかった。彼は難関国立大学を卒業後、なかなかの優良企業に就職し、そこではよく活躍したそうだ。けれども、Pのお母さんは古希を迎える頃に認知症になり、介護施設に入った。この時、Pは完全に寄る辺ない身の上になってしまったことを身に染みて感じ、涙したという。Pがその優良企業を辞めたのは、俺と出会う3年ほど前である。

5/6
コメント(1)
  • 花蘇芳(沈丁花)です。【本当に恐ろしいのは(最終章)】と副題を設けましたが、短編はもう少し続きます。

    2025/12/26/13:48

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