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ヒトコワ

ぽーしょんさんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

ハのひび
短編 2025/11/30 09:25 812view

これは元職場で体験した出来事です。
当時俺が働いていた事務所は年配のご夫婦が経営しており、ワンマン社長の夫を事務職の奥さんが手伝っていました。
高卒で他に行き場のない俺を拾ってくれたことには感謝しているのですが、仕事はお世辞にも順調とはいきません。
何故なら……。

「こんな簡単なこともできねえのか、全く使えねえな」
「すいません」
「これだから世間知らずの高卒は……あーもういい、見てるだけでイライラする。とっとと失せろ」
「失礼します」

机に戻った俺が落ち込んでいると、奥さんが静かに近付いてきました。

「大丈夫?随分叱られてたみたいだけど……」

「はは、慣れてますんで。俺が要領悪くて使えないのは本当ですし」
「元気出して。あとで食べて」
「ありがとうございます」
「K君には感謝してるの。うちの人があんな調子だから新しい子が全然居着かなくて……続けてくれて助かってるわ、これからもよろしくね」

そんな風にフォローを入れてくれる奥さんには好感を持っていましたが、社長のパワハラや暴言には、日々神経をすり減らしていました。
ちなみに社長の趣味は海外旅行で、長期休暇のたびに奥さんを置いて出掛けていました。ここ数年は東南アジア旅にハマっているそうです。

ある日のこと……職場の掃除を任された俺は、社長の机を拭いている時に、とんでもないミスを犯してしまいました。

「あっ!」

うっかり手が滑り、机に飾られていた水晶玉を落としてしまったのです。床に転げ落ちたと思った時には既に遅く、慌てて取り上げた水晶玉には大きな亀裂が入っていました。

「やっちまった……」

これは社長の台湾みやげです。なんでも台北の骨董屋で買った幸運を呼び込みお守りだそうで、わざわざ台座に据え、大事に机に飾っていたのですが……。

しかし本物の水晶玉がそう簡単に割れるでしょうか?
ひょっとしたらガラスの偽物を掴まされたのではないでしょうか?

真相は不明なものの、社長ご自慢の水晶玉を割ったら、凄い勢いで怒鳴り飛ばされるに決まっています。
それを考えるととても憂鬱になり、水晶玉のひびをなぞりながら、こんな事を空想しました。

「社長が死んでくれたらなあ」

その日はちょうど社長が出張していました。時間を確認した所午後3時過ぎ……社長が帰ってくるのは夕方です。
とりあえず後始末だけでもせねばと気分を切り替え、水晶玉のひびが見えないように、割れ目を下にして置き直したのですが……。

数時間後、事務所に電話が掛かってきました。電話に出るなり奥さんは血相を変え、大きな声で叫びました。

「うちの人が事故に?」

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