「百話目は、語らなくていいんだよ」
そう言って、最後のろうそくに手をかざす。
「百話目は……記憶の話なんだ。消された話、語られなかった体験。ここに来たはずなのに、もういない誰か。話してないのに、知っている風景。それが積もり積もって、形になる。語らなかったぶん、何かが現れるんだ」
俺は無意識に部屋を見渡した。
七人いたはずが、誰かが抜けている。
いや、八人だったか?
俺の左隣にいたあの女の人は? 確かにさっき、笑っていた声がした。笑ったのは誰だった?
石田がろうそくを吹き消すと、すべての火が消えた。
闇だけが残った。
あまりにも自然で、ぬるい闇だった。
そして、ふと気づくと――部屋の奥に、何かが立っていた。
顔の輪郭だけが浮かんでいる。
目も鼻も、口もない。けれど、誰よりもはっきりとこちらを見ていた。
声がした。誰でもない声が、俺の中に響いた。
「お前が百話目だ」
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