これは職場にいる先輩の話だ。
その先輩はとても優しくて誰にでも分け隔てなく接してくれる人だった。
ただそういう性格が災いしてか人を見る目が全くなかった。
本当に人を選ばないのかパワハラやサボりの常習犯だろうが普通に仲良くしてしまい挙句の果てにはあの人いい人だよね~と言い出す始末だった。
しかし本人は鈍感過ぎてノーダメージなのか攻撃対象から外されてるのかは定かではないが被害を受ける周囲からしたらたまったものではない。
「先輩、よくあんな人と仲良くできるな…。こっちはすぐにでもいなくなって欲しいくらいなのに。」といつも思っていた。
そんなある日、新しく部長が転勤してくるという通達が本社から来た。
ただその部長というのはパワハラをすることで有名らしく、当然うちに赴任してからもその部長は猛威を振るった。
既にそれを苦にして辞めた人はいたし転職を考えている人は他にも沢山いるという噂だった。
かく言う私もその一人だ。
それであの先輩だがなんと意外にも苦戦しているようだった。
最初のうちはいつも通り上手くやっているようだったが何も言い返さないことを良いことに部長はどんどんエスカレートしていき今では一番の被害者まであるというレベルまで来ている。
ただそれだけやられてもいつものいい人だよね~が苦し紛れのフォローになるくらいで本人から部長の愚痴を聞くことはなかった。
しかしある日、事件は起きた。
部長の先輩に対するパワハラが一線を越えたのだ。先輩はミスをしたわけではないようだがどうやら部長の無茶振りに応えられなかったようで激しく叱責されていた。
今すぐ辞めろとか役立たずとか聞くに耐えない酷い罵声を浴びせられていた。
しまいには俺が退職届書いてやるから今すぐ提出してこいと言ってなぐり書きした紙を先輩に突き出していた。
すると先輩はパッと紙を取ってこう呟いた。
先輩「これだけあれば十分かな。」
え?何のこと?と私は思った。
呆気に取られていた部長に先輩はこう続けた。
先輩「パワハラの証拠。ずっと集めてたんですよ。まあ既にいっぱいあったからそろそろ動こうと思ってたんですけどね。」
部長は唖然としていたがすぐに怒りの表情に変わった。
部長「俺とやり合おうってのか?お前なんかと違って会社はずっと結果を出してきた俺を選ぶに決まってる。」と部長は怒鳴った。
先輩「まあ確かに私だけなら取るに足らないかもですね。でも部長他の人にもやってますよね。その証拠もありますよ。」
部長「それがどうした。お前ら烏合より俺一人いた方が何倍も役に立つ。」
先輩「そうですかー。でも本社はそう思ってないみたいですよ。すでに報告はしてあってハラスメント委員会を立ち上げてたって話です。まあ後は上に任せますか。」
結局、部長はこれが原因で会社をクビになった。でもあの先輩がこんなことをするなんて本当に意外だった。
あまりにも気になったので直接聞いてみることにした。
私「先輩この前すごかったです。でも誰にでも優しい先輩があんなことするなんて正直、意外でした。」
























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