私が一人暮らししてた頃の話です。
住んでたのは、築25年くらいのアパートの1階の角部屋。
狭かったけど、大きい窓が二つあって、昼間は明るい部屋でした。
ただ、すぐ外が人通りの多い道路で、とにかくうるさい。
人の話し声までよく聞こえてきました。
でも、不思議とそれが嫌じゃなかったんです。
……というか、ちょっと楽しかったんですよね。
道を歩いてる人の会話を、なんとなく聞くのが。
夕方になると近くの小学校から下校する子どもたちの「今日なにして遊ぶ?」って声が聞こえてきて。
夜になると小学校とは反対にある飲み屋通りから酔っぱらいが笑いながら通り過ぎていく。
ア◯雪が流行ってた年なんか、あの歌を歌う酔っぱらいが何人もいて、
数えてみたら一晩で七人もいました。
私はそれを、ラジオでも聞くみたいな気分で、ぼんやり楽しんでたんです。
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ある日の夜中。たぶん3時すぎくらい。
ゲームしてて、そろそろ寝ようかなーと思ってベッドに入りました。
部屋を真っ暗にすると、カーテンの隙間から街灯の光が少しだけ入ってきて、
窓の縁がぼんやり白く見えます。
スマホをいじりながらうとうとしてたら、外から声が聞こえてきました。
男の人の声です。
なんか怒ってるみたいで、声が少し荒い。
「……おい……だから……」
少し遠い所にいるのか、声は途切れ途切れでした。
でも、よく聞くと返事がない。ずっと一人で喋ってる。
あれ? と思ったんですけど、すぐに納得しました。
この男の人、電話しながら歩いてるんだなって。
よくないなと思いつつ、つい耳をすませてしまいました。
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その声、どんどん近づいてくるんです。

























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