アメリカの有名な怖い話
広大なアメリカを車で移動するのに欠かせないのがFMラジオ。アメリカはローカルのラジオ局がたくさんあって、この話はそんなラジオのニュースから始まる。
「ただいま入ったニュースです。輸送中の殺人犯が脱走しました。近隣の住民は戸締りをして絶対に外出しないでください。凶悪な殺人犯ですので、十分に警戒してください。」
突然のニュースに驚いたアランとスージーは顔を見合わせた。2人は休暇を利用して家から200マイル離れた親戚の家を訪ねた帰りの道中だった。日が暮れる前に家に着くように早めに出たのだが、途中迷ったのもあって、予定よりもだいぶ遅れていた。しかも、燃料メーターがほぼゼロの状態で次の給油所まで持つか心配していた矢先でのニュースだったのだ。
「どうしよう。」言うが早いか、エンジンから異音が聞こえて、車が減速した。道沿いの柳の木の下に車を止めたアランは地図を広げて言った。「5マイルほど先にガソリンスタンドがあるから、歩いて行って来よう。」スージーは不安げに「ここで他の車が来るまで待って乗せていってもらいましょう」と言いかけたが、この数時間他の車を一度も見ていないことに気づいて言い淀んだ。「私も行くわ」とスージーは言ったが、アランは反対した。「2人で行動するのは却って危険だよ。君はここで車の中に隠れて、僕の帰りを待っていてくれ。」そう伝えてアランは出発した。
「何があっても絶対に動いちゃダメだよ。」そう言われたスージーは、後部座席の下に隠れて、上から毛布を被せた状態でじっとしていた。日はすっかり沈んで辺りは真っ暗闇だった。風の強い日で、大きく垂れた柳の木の枝が車の天井に擦れて、ザザー、ザザー、と音を立てていた。スージーは暗闇に身を潜めてその音を聞いていた。夜が更けて風が強くなるにつれて、木の枝の音も次第に大きくなり、まるで誰かが天井を叩いているかのように、ドンッ、ドンッと車に振動が伝わった。スージーはもしや殺人犯が車を揺らしているのではと思い、恐怖で居ても立ってもいられなかったが、アランから言われたとおり、身動きせずにじっと隠れていた。もうかれこれ2時間ほど待っただろうか。スージーはあまりの緊張に疲れて、そのまま寝てしまった。
サイレンの音で目が覚めた。窓の外を見るとパトカーが止まっていて、警察官が何人かいる。私服の刑事らしき男が拡声器を手にこちらに向かって話しかけている。「もう大丈夫。君は安全だ。車から出て、ゆっくりこちらへ歩いてきてくれ。」スージーが安心して車のドアを開けたとき、刑事は言った。「待って。今から言うことをよく聞いてくれ。こちらに歩いてくるときに、絶対に後ろを振り向かないように。約束してくれ。」スージーはうなずいて、言われたとおり後ろを振り向かずにゆっくり刑事の方に歩いて行った。あと2メートル、あと1メートル、ようやく倒れ込むようにたどり着いたスージーを、刑事は抱き抱えた。「これでもう大丈夫だ。」抱き抱えられるときに、スージーは身体を翻らせて車の方を見た。そこには、柳の木に逆さに吊るされたアランの無惨な死体が、風に吹かれて手を車の天井にぶつけながら揺れていた。
警察によると、アランはガソリンスタンドへ出発した直後に殺人犯に殺されて、木に吊るされたそうだ。しかし犯人はまだ見つかっておらず、今でもどこかに潜伏しているらしい。






















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