思わず切ったぬいぐるみ達から後ずさる。
「これは……現実なの?」という声にならない声を漏らし、涙が勝手に頬を伝う。心臓が破裂しそうなほど早鐘を打ち、頭の中で「逃げなきゃ……」という考えだけが繰り返される。
その後、私はそのぬいぐるみを急いで燃えるゴミ袋に押し込み、なるべく遠くのゴミ捨て場まで駆け足で運び、投げ捨てた。息を切らしながら逃げるように家へ戻る。心臓はまだ暴れ、手は震え続ける。
その夜、布団に潜り込み、震えが止まらず、目を閉じても、あの男の顔、猫の頭、血文字の紙の光景がフラッシュバックして脳裏を覆う。思い出すだけで吐き気がし、声を上げて泣き出したい衝動に駆られる。
「どうして……どうしてこんなことを……」と呟き、涙と鼻水を垂らしながら、何度も自分に問いかける。
心の奥底で、あの男がまだどこかで笑って、次のぬいぐるみを用意しているのではないかという。恐怖が消えず、布団の中で縮こまり、震え続けるしかなかった。
翌日、私は決意を固め、レンタル彼女の仕事を即座に辞めることにした。事務所に足を運び、退職届を提出する。私の手は震え、声も震えていた。相手の事務員が詳しい理由を尋ねてくるが、とても口にできなかった。
「……理由は個人的な事情です」と言葉を濁し、視線をそらすと、事務員は仕方ないという顔で書類を受け取り、手続きを進めた。
そのまま足早に事務所を後にし、街を駆け抜ける。まるで逃げるように、自宅に戻る途中も振り返らずに。
それ以来、私は二度と、レンタル彼女をしないと決意。そしてあの男の姿を見ることはなかった。だが、街で誰かとすれ違うたび、電車で誰かが立っているたび、無意識にあの男の顔を探してしまう。
似た後ろ姿や、同じような服装をした人を見ると、心臓が跳ねる。「まさか……あの人じゃないよね?」と胸の奥で呟きながら、足早に通り過ぎる自分がいる。
そして気がつけば、私は「男」を見るたびについあの男を思い出してしまうようになっていた。あのぬいぐるみの感触、匂い、そして猫の頭や血文字の紙の光景。そのすべてが、今も頭から離れない。
まるで、あの男がどこかで私を見ているかのような感覚だけが、今も消えないでいる……。

























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