そして帰り際、また彼が手作りのぬいぐるみを取り出す。
「これも…前と同じ感じだけど、受け取ってくれる?」
「え、また作ったの?ありがとう~♪」と私は少し笑いながら受け取るが、心のどこかで違和感も覚える。前回と何か違うと感じていた。けどそんな違和感に問うこともなく、その日をレンタル彼女の仕事を終え、日常を過ごすうちにその違和感を忘れた。
それから数日後、また彼から指定が入った。
駅で待ち合わせると、やっぱりあの男。少しずつ顔や腕の様子が変わってきているのに、なんだか慣れてしまった自分がいる。
デート中、男はふとスマホを取り出し、自宅で飼っているという猫の写真を見せてくる。
「見て、この子、めっちゃ可愛いんだよ」
私は笑いながら、画面の中の猫を撫でる仕草をする。
その後もカフェに行き、少し歩き回ってデートは普通に進む。終わり際、彼はまた手作りのぬいぐるみを渡してきた。
「これ、良かったら持ってて」
受け取ると、なんだか前回よりも重い。それに、微かに腐ったような匂いが漂っている。
「え、なんか…重くない?」と心の中で少し首を傾げながらも、笑顔を作る。だが頭の片隅で、違和感がざわざわと広がる。何かがおかしいと、そんな気が否応なしに湧き上がった。
それからレンタル彼女の仕事を終えて、帰宅した私は、渡されたぬいぐるみを手に取った。
やはり、ずっしりと重い。そして、微かにだが腐ったような匂いも漂っている。
「なんだろう?」と思いながら好奇心と恐怖が交錯する中、どうしても確かめずにはいられなかった。可愛いぬいぐるみ。そして彼に悪い気もする。だが、気になる気持ちが勝る。
私は覚悟を決め、そっとぬいぐるみを切ることにした。ハサミの刃が布を裂く音が、部屋に響く。
中を見るとぎょっとして手を止める。形は、明らかに小さな生き物の頭だ。
香りは、想像以上に強く、かび臭さと腐敗の混ざった嫌な匂いが鼻を突く。毛並みはまだ残っているが、乾燥してパサパサとしており、目の部分はくぼみ、まるでこちらを睨むかのように空洞になっている。小さな口はかろうじて形を留めており、硬化した歯が光を反射した。
思わず息を呑み、後ずさる。
「……な、何これ……?」
手が震える。あの笑顔の男が、この中に何かを込めていたとは信じられなかった。
可愛いと思っていたぬいぐるみが、まさか…
切断された猫の頭が入ってるなんて…!?
私は思わずぬいぐるみを床に投げ捨て、全身が震えた。そして視線を、彼からもらったもう二体のぬいぐるみに向ける。
「まさか……中に何かある?」
恐怖と嫌悪が入り混じる胸の奥で、どうしても確かめずにはいられなかった。覚悟を決めるように手を伸ばし、二体のぬいぐるみを順に切り裂いてみることにした。
一つ目のぬいぐるみを切ると、中から髪の毛と欠けた歯の一部が出てきた。あの日、彼が髪を切り、前歯が欠けていたことを思い出す。
次に二つ目のぬいぐるみを切ると、今度は血文字でびっしりと書かれた紙が出てきた。「呪」としか書かれていない文字が大量に並んでいた。その日、彼の右腕には包帯が巻かれていたことを思い出す。
私はそれを見て確信した。彼は自分の体の一部や血で、ぬいぐるみに詰めて渡していたのだ。そして今日のぬいぐるみの中入っていた猫の頭。よく見ると彼が見せてきた写真の猫に似ているような…まさか自分のペットを殺して、ぬいぐるみの中に…
そう考えると私は手が震え、全身の力が抜けた。息が詰まるようで、視界が揺れる。胸の奥が凍るような感覚。これが恐怖というものなのか、と身をもって感じた。
























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