M峠を走る赤いコスモにまつわる噂

俺は愛車のヤマハ・RD400で早朝、M峠を走っている時に俺の後ろから何かが追いかけてくるような気配がした。俺は後ろを振り返った。その時、俺の心臓は止まりそうになった。
「あの赤いマツダ・コスモAPクーペは！」
俺のRD400の後ろにマツダ・コスモAP(二代目)が爆走していた。命の危機を感じた俺はアクセルを全開にして、コスモAPとの距離を引き離す。数分後、M峠を越えた俺は休憩を兼ねて、近くのコンビニの駐車場でジョージアオリジナルを飲みながら回想する。それは俺が親友のK野からM峠にまつわる噂話を聞いた時のことであった。
「あの山道で赤いマツダ・コスモAPクーペを見つけたらすぐその場から離れた方がいい」
「は？それどういう事？」
「これは走り屋の間では有名な怖い話なんだけど、その赤いコスモAPには死神が運転しているんだ。その赤いコスモAPの死神に捕まるとドライバーは殺されるという噂があるんだよ」
「はーん？そんな話誰から聞いたんだよ？」
「Y村」
「Y村って俺の近所の電気店で働いている兄ちゃんか？俺はあんまり、Y村とは会話することなかったし」
「ああ。お前は知らないと思うけど、Y村ってすげえ走り屋で有名なんよ。いつも電気店にフォード・カプリⅡが止まっているだろ？あれ、Y村の車なんだよ」

「マジかよ・・・。あの滅茶苦茶、チューニングされているカプリⅡの持ち主ってY村だったのか。ちょっと驚きが隠せんわ」
「実はな・・・俺、この前、M峠で死神が運転する赤いマツダ・コスモAPに遭遇したんだ・・・」

K野は先日、Y村の運転するフォード・カプリⅡで早朝、M峠を走った時の話をした。Y村はよくこのM峠を通って、電気店のお得意先である山荘にまで電化製品の配達に向かう事があった。ある日、K野はY村から
「明日の朝、M峠の山荘まで電化製品の配達の手伝いをしてくれないか？今回は配達する荷物が多くてな。ま、バイト料は出すからさ。ね？」
と頼まれたのだ。K野はバイト料欲しさにあっさり引き受けたのだ。言わずがもなK野はM峠で恐怖のドライブをする羽目になったのは言うまでもない・・・。二人が乗るフォード・カプリⅡで山荘まで電化製品を配達しに行く途中、M峠で赤いコスモAPに出くわした。赤いコスモAPは猛スピードでカプリⅡを追いかけてきたのだという。ちなみにコスモのエンジンはロータリーであり、カプリⅡのエンジンは直列4気筒のOHVだ。エンジンの性能ではコスモの方が上なのである。助手席に座っていたK野は死神の乗る赤いコスモAPに恐怖した。追いつかれたらマズイ！このままだと死神に殺されてしまう！カプリⅡが急カーブに差し掛かった時、もはやプロの走り屋状態のY村は片ハンでカプリⅡに搭載されている必殺の「ニトロ」を発射させて、急カーブをドリフト走行をかました。爆走するコスモはハンドルミスの所為か急カーブを曲がりそこね、ガードレールを突き破り、谷底に転落し爆破炎上した。Y村の運転するカプリⅡはニトロをふかしながら、そのままM峠を後にしたのだという。

数分後、カプリⅡは配達先の山荘に到着した。山荘の駐車場には山荘の主の自家用車と思わしき黒色の79年型ジャガー・XJ12とレンジローバー(初代)が停められていた。K野は二台の高級車を見て
「この山荘の持ち主はめっちゃ金持ちなんだろうな・・・」
と思ったという。さて、電化製品を持ったY村たちはカプリⅡから降りると、山荘の玄関ドアをノックする。すぐさま、この山荘の主がドアを開けて現れた。山荘の主はいかにも高級ヤクザみたいな感じであった。
「荷物をもってまいりました」
「そうか。ご苦労・・・と言いたいところだが、隣の男は？見かけない顔なんだが？」

「彼は俺の配達の手伝いを協力してくれた方です。今回、アンタが注文した電化製品は俺一人では運びきれませんので助っ人で急遽参加させました」
「Y村。そいつにはこの電化製品の事は何も伝えてないんだな？どうなんだ？」
「伝えていません。これはお客様のプライバシーにかかわる事ですので」
「本当か？」
「ええ、本当ですよ。神に誓って」
心臓バクバク状態のは死神の乗る赤いコスモAPより山荘の主とY村のやり取りに緊張したという。ぶっちゃけ言うと死神よりか、むしろ山荘の主の方が怖かったという。山荘の主は鼻を鳴らしながら
「まぁいい。配達ご苦労」
と言い、K野とY村の肩を叩く。配達を終えたカプリⅡは帰り道もM峠を走っていた。朝一で「恐怖の報酬」を終えて、安心しK野は
「家に帰って、セガ・マークⅢの「アウトラン」でもやるか」
と呟いた。そんなK野の安心もあっさり打ち砕かれることになる。対向車線から死神の乗る赤いコスモAPが爆走してくる姿を見るまでは・・・。