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心霊

NADEGATAさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

13階
短編 2025/09/19 18:56 1,185view

7年前の秋頃でした。
当時、私は24歳で、都内のローカル線沿いのアパートに住んでいました。
それほど大きくない、13階建てのアパートの6階の604号室。
その日の朝は出勤のために部屋を出ると、エレベーターがちょうど6階にとまっており、男性が乗り込んでいくのが見えました。
私もエレベーターに駆け込むと、奥に立っている男性に軽く会釈だけして入口の方を向き、スマートフォンの新着メッセージの見出しなどを眺めていました。
入れ替わりの多い単身者向けのアパートでは、同階の住人同士でも交流はなく、その男性のことも、見かけたことがあるかな、という程度でした。

そうしているうちに扉が閉ると、エレベーターが上に動き出したため、意表を突かれたように感じました。
普通はアパートで居住階から乗り込んだエレベーターが上に向かうことはありません。
住人が別の階に用があることなど、ほとんどないからです。
宅配業者や、アパートの管理業者が複数階を回ることはありますが、そうそう乗り合わせる機会はありません。

ドア脇の階数選択のパネルを見ると、アパートの最上階である13階にランプが点っていました。
こんな朝から最上階に何の用だろう。
ドアのガラスの反射で、薄くエレベーターの同乗者の姿が見えました。
寝巻のようなスウェット姿で、宅配業者のようでも、ビル管理の関係者のようでもない。
目線を上げると、猫背気味にうつむき、茫洋とした表情のその男と、ガラスの反射越しに目が合ったように思いました。
決まずい思いと同時に薄気味悪いものを感じ、私は11階のボタンを押しました。
ほどなくエレベーターが停止し、外に出る、その間にも男性のじっとした視線を背中に感じていました。

11階のエレベーター前で下階行きのボタンを押すと、じきにエレベーターが降りてきましたが、中に男性の姿はありませんでした。
1階につき、アパートのエントランスを出ようとしたあたりで、中庭の方から、「ゴツ」、と「ドサ」の中間のような鈍い大きな音が響きました。
まさか、、と嫌な予感を感じつつも、出社時間に遅れそうであったこともあり、私は会社に向かいました。

その夜アパートに帰宅すると、中庭が立ち入り禁止になっていました。
大家さんに確認してみると、大家さんは言いづらそうではありましたが、その日の朝マンションの最上階から、住人の飛び降りがあったと話してくれました。
やはり、朝に私がエレベーターで乗り合わせた男性が、飛び降りを行ったのでしょう。
記憶の中の男性の表情がひどく恨めしいものであったように思えて、たまたま同じエレベーターに乗り合わせた不運を、後味の悪い思いとともに感じていました。

しかし、話はそれでは終わりませんでした。

次の日の朝、出社のために6階からエレベーターに乗り込むと、確かに上から降りてきたはずのエレベーターがまた上に向かっていきます。
そして、停止階のランプは13階にともっています。
気づくと、エレベーターの窓に映って、同じエレベーターの室内、私の背後に、昨日飛び降りたはずの男性の姿が見えました。
恨めしそうな表情で私を見つめながら、ふらふらと近づいてくると、私のすぐ背後にほとんど寄りかかるようにしながら、絞り出すようなかすれた声で「一緒に来い」とささやきました。

私は恐怖に凍り付きつつも、このまま13階に行ってはだめだと思い、12階のボタンを押しました。エレベーターは11階を通り過ぎたところで、止まるにはぎりぎりのタイミングでした。
扉が開くと私は転げるように外に出ました。
再度エレベーターには乗り込む気になれず、私は非常階段を使って1階まで下りました。

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コメント(1)
  • はっきり言ってそこまで怖くはなかったですけど実際にそのようなことがあるとゾッとしますね

    2025/09/22/12:06

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