男の指がゆっくりと伸びた。いや、伸びたというより、こちらに手を伸ばしているように見えた。
頭は微動だにしないまま、手がこちらに向かってくる。
この病院の噂話のひとつ『連れていかれる。』
まさに、私は今連れていかれようとしているのだろう。
もうダメだ。そう思った瞬間。
病室の扉が開く音がした。
金縛りが解け、今まで呼吸していなかったことに気がついて、大袈裟に息を吐いた。
シャーー!と、私のベッドのカーテンが開かれた。
そこには宮守が立っていた。
良かった、助けに来てくれたんだ。宮守が神様にも仏様にも見えた。
後光が指しているようにも見える、宮守が口を開いた
「今から手術します」
「え?」
その声は、あまりに無機質で、あまりに感情が入っていなかった。
「これから手術室に向かィ、摘出手術ヲ行いマす」
そう言って、おもむろに私のベッドを動かそうと近づいてきた。
「辞めて!!」そう叫んで必死に宮守の袖を掴む。
「手術室二向かィまス」
「心臓のテキシュツ手術デすす」
「こんにちは」
「田中サん、様子はいカがデデデデデすか?」
「ワレ我の力が足りず、マコトに申し訳アリませんデした」
「りえチャん、ちゃんト野菜も食べれれれれれタ?」
宮守は、恐ろしいことに、女の人の声、年寄りの声、そして私のお母さんの声を出しながら、とんでもない力でベッドを強引に動かし始めた。
「やめて!!」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら、必死に叫んだ。
隣のベッドで寝てる人達はこんなに叫んでいるのに全く起きてくれない。
ベッドから降りようともしたが、ベッドの下から沢山手が生えてきて、私を押えつけた。
「やめて!助けて、、だれか!!たすけて!!」
必死に叫び続けた。ベッドは無慈悲にも病院の廊下を疾走し、その間も、宮守は次々と違う人の声でどこかで聞いたようなセリフを喋り続けていた























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