『人のフリをしている』
『連れていかれる』
宮守はきっと、あの男に取り憑かれたんだ。
誰一人、病室から出て来てくれない。
しかしその時だった。
廊下を疾走する靴の音、向こうの曲がり角から、元々の私の主治医の先生が飛び出してきて、ベッドを反対から押して止めた。
次々と廊下を走る音が聞こえ、何人も看護師さんやお医者さんが出てきてそれに加勢する。
「絶対にここから先には行かせない!」
「りえちゃん、大丈夫だからね、」
たくさんの人達に励まされ、私はさらに泣いた。
宮守も10人弱が相手では分が悪いのだろう。
少しづつ押され始め、
「オペをかイしすすする」
「おはようゴざイます。田中先生」
「メス、汗」
などと言っていたが、しばらくすると押すのを辞め、
首を左右にブンブン振り回しながら、廊下の闇に向かって走り去っていった
私は泣き疲れて眠りに落ちた。
・
・
・
次の日の朝、元々の私の主治医が来た。
「昨日のことは申し訳ない、大丈夫だったか?」
「君がいきなり僕の話を無視し始めたから、まさかとは思っていたんだけど……もっと早く対処するべきだった。」
的な事を言われた。この先生の話を無視した記憶は無いが、昨日のようなことがあっては、私の記憶など当てにならない。
そんなことよりも、宮守先生が心配だった。
「宮守先生は取り憑かれちゃったの?どこ行っちゃったの?生きてるの?」という風に捲し立てるように聞いた。
あの男の霊のことも伝えた。
主治医は難しい顔をして、こう言った。
「カーテンから見つめてくる人は”見守りさん”って呼ばれてて、全く害は無いし、むしろ病室に出たって患者さんはすぐ回復して退院していくよ」

























※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。