今日はつらいでしょうが、今日だけですよ。
寝返りはだめです。どうしようもなくて。ごめんなさい。
横を向いたら、ついちゃうから駄目です。絶対に。逃げても駄目です。絶対に。』
淡々と話す女性の声を聞きながら込み上げる絶望感に思わず嗚咽が溢れそうになる。
女性の声が止まり、男の低い呟き声に変わる。
先ほどは小さくて聞き取れなかったあの声が、今回ははっきりと聞こえた。
私の名前だった。
地の底から響く様な低い声で私の名前を繰り返していたのだ。
私はその場から今すぐ逃げ出したい気持ちに駆られ
思わず目を見開いた。
———-
そこには何もいなかった。
恐る恐る後ろも振り返るがやはり誰もいない。
そして驚いた事に、廊下を歩いていたと思っていた私は寝室の壁の隅に突っ込む様な形で立っていた。
さっき確かに寝室から出たと思っていたのに、実際は寝室からさえも出られていなかったのだ。
私はまず電気をつけようと手探りでリモコンを探してスイッチを入れた。
真っ暗だった部屋が白いLEDの光に照らされる。
ふとベッドの近くに散らばった花瓶の破片が目に入った。
先ほど手が当たって割ってしまったものは一輪挿し用の花瓶だったようだ。
ため息をつきながら破片を拾おうとかがんだ私の視界の先に、ベッドの下の暗がりに何かが落ちているのが見えた。
スマホのようだった。
拾おうとベッドの下に手を伸ばした瞬間、
トントン
ベッドの上から何かが私の肩を叩いた。
————–
次の日の朝目が覚めた時、私はベッドの下に倒れ込む様にして横たわっていた。
一瞬夢かとも思ったがすぐ近くに散らばる花瓶の破片を見てそうではないと気付く。
ハッと体を起こし、すぐ横に落ちていたスマホを手に取った。
スマホの画面は一件の通知をうつしだしていた。
昨日のあの番号からのSMSメッセージだった。

























暗闇の中で更に目を開けられない状況って、それだけで普通は耐えられないくらい恐ろしい。
最後はどういう意味なんだろう?
めちゃくちゃ寝癖付いてたんかな。