洗濯物を干していると、靴下が片方しかないなんてこと、皆さんも経験あると思うんです。
まぁそういう時って、大抵は他の洗濯物に絡まってたり、床に落ちてたり、洗濯機の中に残ってるものですよね。
よく子供の靴下が片っぽ無いなぁなんて思っていると、ズボンポケットの中からポロっと靴下が出てきたりします。
そういう時、イラっとしてついつい子供に殺意が湧いてしまいます。シャツやトレーナーが裏返しのままになってたりするのも本当にイライラします。
再来年はもう小学生なのに、なんでこんなにガサツなんだろう。手伝いもしないで私の足を引っ張るばっかり。別れた旦那に似ちゃったのかなぁ、なんて。
すみません、脱線しました。
私がお話ししたいのは、私の実家の洗濯機の話なんです。
幼少時の私はよく母親の手伝いとして、洗濯物干しをしていました。そうすると、たまにさっき話したみたいな状況が起きるわけです。
つまり、靴下や手袋みたいな「二つで一つ」の片方が、洗濯カゴに見当たらないんです。
おかしいなーと思って、物干しのあるバルコニーから洗濯機のある1階までの通路を探して歩くんです。でも見つからない。
椅子に乗って洗濯機の中を底の方まで覗き込んでも、見つからない。
それで母に報告するんです。靴下が片っぽ無くなっちゃったって。そうすると母は決まって
「あらら。きっと洗濯機が食べちゃったんだねー」
と、笑って言うのでした。
子供とは言え、私ももう5歳とか6歳の頃の話です。えー、洗濯機は食べないよーと私が言うと母は
「うちの洗濯機は食いしん坊だから、お腹がすくと食べちゃうんだよー」
と、また笑うのです。
その頃使っていた洗濯機は、確かに年季の入ったものでした。確か、母が独身の頃から使っていたものだったと思います。
脱水の時にすごい音を立てながら前後左右に大きく揺れるんです。ただでさえ大型の洗濯機だったので、その揺れ方は怖いぐらいでした。うちのに比べると、幼稚園の洗濯機は静かだなぁと思ったのを今でも覚えています。
一度、掃除機や冷蔵庫は新しいのに、洗濯機は買い替えないの?と母に聞いたことがあります。母は
「長い付き合いで気に入ってるの」
と、友人かペットのことを話すような優しい口調で答えました。
もしかして、本当にうちの洗濯機は洗濯物を食べてるのかなぁ。あんなに揺れるのは、靴下をモグモグ噛んでるからかなぁ。
そんなことを考えながら、私は洗濯が終わるのを階段に座ってじっと待ったものでした。
私が小学3年生の夏、父は母と私を残して姿を消しました。学校から帰った私をリビングで迎えた母が微笑みながら
「パパはもうおうちに帰ってこないって」
と言うのです。
父は家庭内で影の薄い人でした。平日は残業が多くて私と顔を合わせるのは朝食の僅かな時間くらいでしたし、休みの日も仕事と言って一人で出かけることが多かったです。
母も会話の中で父のことを話題に出すことはなく、私たち母子の間で父は元々いないも同然の人でした。
後になって気付いたことですが、三人家族で住むには広すぎる家に住んでいたこと、ブランド物の家具や服・食器に囲まれていたこと、父だけでなく専業主婦だった母も一台車を所持していたことを考えると、きっと収入はよかったのでしょう。父がいなくなっても、母は独身時代にしていた翻訳の仕事を再開する以外、特に変わった様子は見せませんでした。生活に困ることもなく、私は大学卒業まで何不自由なく暮らせました。
父が去って数日後、家に新しい洗濯機が来ました。ドラム式のピカピカした洗濯機は、前の洗濯機に比べてとても静かで、服も絡まらないし、何より靴下を食べることもありませんでした。私は前の洗濯機は?と聞きました。
「もう歳だし、少しお休みしてもらうことにしたの」
そう言う母の顔は、声の明るさに対して妙に冷たく無表情だったのが印象的でした。

























スマイリーさんオッスオッス
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