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呪い・祟り

八神のカイさんによる呪い・祟りにまつわる怖い話の投稿です

おじいちゃんの怖い昔話
短編 2025/08/02 13:33 2,054view
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俺がまだ、小学生だった頃の話だ。
夏休みに祖父の家へ泊まりに行くと、決まって夜になると
囲炉裏の前に呼び出された。
「お前にだけ話しておこう、この家に伝わる昔話じゃよ。」
祖父の久蔵は、そう言って、ぽつりぽつりと語り始めた。
けれどその話は、童話のような夢の世界ではなく
今でも俺の人生を縛り続けている、呪いの話だった。

「この家系はな、女が呪われとるんじゃ、子を産むと死ぬ。」
最初は作り話だと思った。
けれど祖父の目は、あまりに真剣で子供ながらに笑えなかった。
うちの家系では、女が子を授かると必ず命を落とす。
原因ははっきりしないが、江戸時代におきた
怨みに端を発するらしい。
ある女が、武家に側女(そばめ)として差し出されたが
嫉妬によって命を奪われた。
その女が最期に言ったという。
『我が血を継ぐ女は、子を産めば死ぬ定め…』
その日から、呪いは現実になった。
曾祖母、その母、そのまた母、女が子を産んだ年に
次々と亡くなっている。病死や事故という形で。
ただ、ひとつだけ抜け道があった。
それは、結婚しなければ、子を持たなければ生きられるということ。
だから、この呪いを聞かされた家の女たちは
好きな人ができても身を引き、ひっそりと生きていった。
しかし、祖父はこうも言った。
「回避が3代続くと、次の代は逃げられん。産むべき宿命を
背負わされる。」
それを聞いても、当時の俺には実感なんてなかった。
けれど、その話は今も脳裏に焼きついて離れない。
俺の名前は、望月圭介、43歳。
妻の静江とは見合いで結婚し、今では高校生の娘がいる。
名前は美咲、現在16歳。

妻は家系の血とは無関係、母も祖母も外から嫁いできた人間だ。
つまり美咲は、呪いを継ぐ4代目にあたる。
ある日の夕食後、美咲がポロリと言った。
「クラスにね、ちょっと気になる人がいるの。優しくて
すごく真面目で・・・」
その瞬間、食卓の空気が凍った。
俺の手が止まり、静江は不思議そうに俺の顔を見た。
いや、違う、本当に凍っていたのは、俺の背筋だった。
それからというもの、奇妙なことが続いた。
風のない夜、仏間の掛け軸が勝手に揺れる。
美咲の部屋の窓ガラスに、内側から引っ掻いたような小さな手形。
誰もいないはずの廊下から、濡れた足音が聞こえる。
(まさか、もう始まっているのか?!)
ある日、押入れの奥を整理していると、古びた箱が出てきた。
中に入っていたのは、虫食いだらけの家系図。
見ていくと、女たちの名前に赤い線が引かれた箇所がいくつもある。
その横に、出産と死亡の文字。
そして、最後のページには、こう書かれていた。
『4代目生まれしとき、継がれし死は確定する。』
愕然とした。美咲の代で逃れられないということなのか。
その夜、仏壇の前で線香をあげていると久蔵の遺影が
勝手に落ちて割れた。
驚いて遺影を拾おうとした瞬間―――
スマホの画面が勝手に点き、「着信:久蔵」の文字。
スマホからは、ノイズ交じりの声が聞こえた。
「次は、あの子じゃ・・・」
スマホを床に落とした、震えが止まらなかった。
美咲の夢に、女が自分の胸を裂いて何かを取り出す映像が
繰り返し現れるようになったのも、その頃からだった。
もう黙っていられない。
俺はついに、美咲に全てを話した。
呪いのこと、祖父の昔話、今までの異変、そして

彼女が4代目であること。
話し終えたとき、美咲はただ静かに笑っていた。
「大丈夫、そんなの迷信だよ。私ね、もし本当に呪われたとしても
好きな人とちゃんと生きたい、笑っていたい、怖がって
閉じこもって、一人で死ぬくらいなら・・・」
その笑顔が、どこか祖父の最期に見た表情と重なった気がした。
それから月日は流れた。
俺は、その話を封じ込めた。忘れたふりをした。
そしてある日、それは美咲が25歳になった年の秋だった。
夜、仕事から帰ると、静江と美咲が居間で向かい合って座っていた。
空気が張り詰めていた。
美咲の目は赤く、少し腫れていた。
俺の顔を見ると、美咲は小さく息を吸って、言った。
「赤ちゃんができたの・・・ちゃんと検査してもらって
確かだった。今、9週目。」
しばらく、誰も口を開かなかった。
時計の秒針の音だけが、やけに大きく響いて聞こえた。
「本当に大切な人なの、怖いけど、私・・・産みたいと思ってる。」
俺は、言葉が出なかった。
心の奥で、やっぱりと思った。
どこかでわかっていたのかもしれない。
何も変わらなかったことを。
数日後、仏間に供えてあった白木の位牌が、ひとつ増えていた。
俺は見たことがなかった。
よく見るとそれは、美咲の名前が彫られた位牌だった。
横には、さらに小さな名前のない位牌。
誰が作ったのか?なぜそこにあるのか?
もう、そんな疑問すら意味をなさなかった。
呪いは終わっていない。
それどころか、次の命へ、より深く静かに、染み込もうとしている。
俺は今でも、あの囲炉裏の前で語る祖父の声を夢に見る。
『この家に生まれた女は、子を産めば死ぬ定め。』
その言葉は、物語じゃない。怪談でもない。
この家に流れる、現実なのだ・・・。

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