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不思議体験

ナンニンさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

黒い口
短編 2025/07/02 10:18 910view

私が子供の頃のはなしです。夏休みのある日、久しぶりに出張からかえってきた父親と弟の3人で近くの大仏さんのある山を探検しようということになりました。

夏の暑い日でした。山道をあるいていると、ずいぶんと山奥に入っていました。そこが何処なのかわからないので、そろそろ帰ろうということになりましたが、来た道を戻っても何故か、山を抜け出すことができませんでした。3人で途方に暮れていると、山道の向こう側から人が歩いくる姿が見えました。籠を背負って頭巾でかおを隠した老婆でした。

すぐさま「すいません。道に迷ってしまって大仏さんのほうに抜けるのはどう行くんですか?」と声をかけると、無視してすぎさりました。もう一度、声をかけましたが、全く私たちの存在には気が付いてないようでした。3人で顔を見合わせました。すると父が「あのおばあさん、向こうからきたから、そっちにいってみようか?」ということで、歩き始めました。

しばらく歩いていると水の流れる音が聞こえてきました。「川かな?」誰かが声をあげました。そして水の流れる音を頼りに歩いていくと小さな小川がありました。とてもきれいな小川でメダカがたくさん泳いでいました。水を触るとひんやりしてとても気持ちが良かったのを覚えています。少し休憩をしてから、小川沿いを歩いて行くと小さな赤い渡橋がありました。

父が「向こうに家があるぞ、あそこで帰り道を聞いてみようか?」ということで、その家に向かって歩いていきました。その家はまるで、昔の武家屋敷のような家でした。小川に面してる部分に渡り廊下、それに面して襖の閉められた部屋が見えました。

すると、その渡り廊下を歩いている着物姿の女性の後ろ姿が見えました。

私たちは、すぐさま声をかけました。「すみません!ちょっとおしえてほしいんですけど?」と、するとその女性はゆっくりと振り返りました。その姿は、まるで十二単を着ているような古風は女性でした。もう一度こえをかけました。「道にまよってしまって、どう行けば大仏さんのほうにもどれますか?」するとその女性はこっちに近づきながら手招きし、そして口を開きました。その口は唇も歯も真っ黒でした。私は、思わずゾクっとしました。その女性は手招きしながら笑みを浮かべ、こちらを見つめていました。

だれかが突然「逃げるぞ!」と声をあげました。それから3人で山道を走って行きました。どこをどう走ったのかは全く覚えていませんが、暫くすると上のほうで車の走る音が聞こえてきました。その音を頼りに上っていくと道路にでました。道路には標識があり、変える方向がわかったので、道路をあるいて帰路につきました。

この話は1970年代の前半に私が神戸に住んでいたころの話です。興味のある方は、ぜひ訪ねてみてください。大仏さんはまだある様です。因みにその山は昔、源平合戦があったところです。あの女性も今思えばお歯黒だと思いますが、あの時代のお歯黒は奇妙です。もしかすりと少しの間だけタイムリープしたのかもしれません。

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