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ヒトコワ

かいかいさんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

もう一人の自分
短編 2025/06/13 15:19 1,999view
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俺は何もしていない。メールも送っていないし、会議も欠席していた。それなのに……”俺”がどこかで何かをしている。

同僚の女性からもLINEが来た。

「昨日の夜はさすがに怖かったよ。黙って私の家の前に1時間も立ってるなんて。何があったの?」

心当たりは一切ない。だが、”何か”が俺の顔をして、俺の行動として記録され始めている。

やがて、鏡に映る自分が――まったく動かなくなった。

朝、歯を磨いている時、俺が口を動かしても、鏡の中の”俺”は動かない。瞬きもしない。ただ、じっとこっちを見て、ニヤリと笑った。

心臓が止まりそうになった。

その夜、ついに”そいつ”と対面した。

深夜、ふと目を覚ますと、ベッドの脇に”俺”が立っていた。

スーツ姿。全身が濡れていて、土臭い匂いがする。目が黒い。完全な漆黒。口元だけが、異様に裂けたように歪んで笑っていた。

声が出なかった。体が動かなかった。

そいつは、ゆっくりと身を屈めて、俺の耳元で囁いた。

「――交代しようか?」

翌朝、目を覚ますと、部屋の配置が微妙に違っていた。冷蔵庫が左側に移動していた。テレビが壁にかかっていたはずが、床に置かれていた。

それだけじゃない。スマホのロック番号が変わっていた。銀行の暗証番号も。メールの送信履歴には、見覚えのない大量のメッセージ。

俺はもう、”俺”じゃないのかもしれない。

誰かが、俺の人生を乗っ取った。あの日届いた封筒から、すべてが始まったのだ。

――今、これを読んでいる君へ。

どうか、夜中に鏡を覗かないでほしい。そこに映る”自分”が、本当に”自分”である保証はない。

なぜなら俺は今――鏡の中から、こっちを見ている側になったからだ。

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