進雄(すさのお)神社には、いつも木漏れ日が差している。
まわりを囲む木はどれも背が高くて、昼間でもちょっと薄暗い。
でも、そのぶん葉のすきまから落ちてくる光が、地面や鳥居をキラキラと照らしてきれいだ。
拝殿はまだ新しいほうだけど、石段の端や柱の根元には、ところどころ苔が生えていて、
少しだけ昔の神さまのにおいがする。
そんな神社の、賽銭箱の中に“鬼”がいるなんて、たぶん誰も信じない。
1. 賽銭箱の中の声
わたしが鬼と話をするようになったのは、小学五年の夏だった。
家から歩いて五分のところにある、進雄神社。
鬱蒼とした森に囲まれた、小さくて古い神社だよ。
その賽銭箱の中には、“鬼”がいる。
はじめて声を聞いたのは、風の強い日の午後だった。
誰もいない拝殿で、わたしが投げ入れた五円玉が箱の中で跳ねたとき、
どこからともなく低く、がらがらした声が響いた。
「……ほぉ、煙の香り。久しいな。お前の背後から漂っているぞ」
振り返っても誰もいない。
でも、賽銭箱の奥、木の隙間から、なにかが動いたような気がした。
それからわたしは、毎週燻製ビーフを持って神社に通うようになった。
ウラは、それが大のお気に入りになった。
「……人の肉は、若いころには格別だった。
だが今となってはしつこいだけだ。
牛の干し肉の、噛み締める味のほうが好ましく思えるとはな……」
2. 鬼のこと
ウラは“鬼”だけど、わたしの知ってる大人たちより、よっぽど物知りだ。
平安の昔に、力のある巫女によってこの賽銭箱に封じられたらしい。
「最初は灯篭だった。やつらはどうしても、器の形に縛りたがる」
「灯篭が壊れてから、次はお前たちの祖父が、この箱に封じ直した」
「……見えはせぬが、わかるのだ。ここいらの空気の動きと、音と、匂いでな」


























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