彼は、最後にこう呟いた。
「……もう、忘れないよ」
そして、静かに、沈んでいった。
⸻
その日、森の入口にて、警察が一人の男の靴と手帳を発見した。
手帳の最後のページには、震えるような字でこう記されていた。
「潮は鳴っている」
「ここは 海のかわり」
「シオナリ様が わたしを覚えていた」
「だから わたしも 思い出した」
「神は 孤独だった」
「だから しずんだ」
それ以降、森の中に入った者はない。
いや、入ったのかもしれないが――戻ってはこなかった。
海は今日も、何もなかったかのように、静かだった。
けれど耳を澄ませば――
どこかで、潮が鳴っている。
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