「昔のことなんですが、その頃は精神的にかなり疲れていて、浴槽に浸かるとすぐ眠ってしまっていたんです。危ないとはわかっているんですが、少しでも気を緩めると安心して‥」
知人を介して知り合った男性、連さんから聞かせて頂いた体験談である。
ある日、いつものように湯船に浸かっていたときのこと。
いつ眠ってしまったのだろうか。かなり長くお風呂に入ってしまっていた。
目を覚ますと、体がかなり熱く頭が回らないことに気づく。風呂のスイッチを見ると、自動で追い焚きがされていた。これが原因だろう。
連さんは湯船から這い出るように体を動かし、脱衣所で何十分も倒れこんだ。
さすがにこのままではまずいと思い、このことをきっかけに入浴する際にはいつも以上に気をつけるようにしていた。
しかし、ある日また湯船で眠ってしまったのだ。
鼻の下まで浸かり、もう少しで沈んでしまうというギリギリで目を覚ます。なぜいきなり目を覚ますことができたのか?
怒鳴っている男性の声で
「起きろ!!!!!」
と聞こえてきたから。
「あのとき、あの声が聞こえていなかったらと思うと本当にゾッとします。あの声は自分を守ってくれる声だったんだと思うんですが、誰だったんでしょうか」
この男性の声は、この出来事以降も聞こえ続けたという。
ある日の夜、突然目を覚ました。
どうんっ。
一瞬、弱くはあったのだが揺れを感じたのだ。
揺れを感じてから目を覚ますならまだしも、揺れがおきる前に目が覚めた。もちろん、理由はちゃんとある。
「地震がくるよ。そう聞こえたんです」
微弱な地震ではあったが、地震を教えられ目を覚ましたことが二度あったという。
そんなある日、また声が聞こえてきた。
「もう、大丈夫」
この言葉が聞こえて以降、もうこの声が聞こえてくることはなかった。
「あの声がわたしを助けてくれたんだと思います。せっかく助かった命を粗末にしないように生きていこう。そう思える出来事でした」
聞こえていた声が聞こえなくなる。見えていた物(者)が見えなくなる。そんな体験談は多い。
そのときの自分には必要だったが、それがなくても問題がなくなったから感じ取れなくなった。これは不思議な体験談の話ではあるが、人間関係や仕事、生きている中でもそういったタイミングがある。
今、必要なこと。必要なくなったこと。
怪談を取材していると、自分の生き方を考えさせられる、いや。自分を振り返る機会が多くなる。執筆とは自分と向き合うことでもある。ひとりで書き進め、その内容を伝えるのに相応しい言葉を探す。
これからもまた、ぼくは不思議な体験談を取材し続けるだろう。
(※仮名を使用しています)























守ってくれた人は守護霊じゃないんですか?