男は鳥居を潜ると本殿の前に歩き進む。
市之助くんも従う。
男は本殿に一礼し正面階段を上がり扉を開くと、背中を押して市之助くんを室内に入れた。
そして「パパとママはしばらく旅に出るが、お前は誰かが来るまでここにいるんだぞ」と言うと、ゆっくり扉を閉じていく。
その後は漆黒の闇が支配した。
※※※※※※※※※※
正気を取り戻した前嶋はすぐに警察に電話をする。
あとから訪れた警察の人に彼は、どうしてこんな場所にいたのか?とさんざん聞かれたが、どうせ信じてもらえないだろうと適当につじつまをあわせたことを言った。
翌週の仕事休みの日に前嶋は再びあの廃神社を訪れると、朽ちかけた本殿入口前の板の間に一束の花を添え、合掌する。
それから帰り際もう一度合掌した。
彼は思う。
たぶん当時いじめに合って孤独だった自分の心が、市之助くんの彷徨う魂を引き寄せたのではないかと。
そして最後に一礼し、帰ろうとした正にその時だ。
「あ、、り、、が、、と」
耳元で男の子の囁くような掠れた声がして驚いた彼は思わず振り向く。
だが視線の先にあるのはあちこち雑草の生えた平地に建つ朽ちた鳥居と、その向こうに広がる鬱蒼とした林だけ。
前嶋の胸の奥底からは激しい思いがドンドンこみ上げてきていた。
やがて熱いものが片方の頬を一筋つたうと、、、
ポトリと落ちた。
【了】
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こんなに感動したものは初めてです。
名作じゃんけ。
コメントありがとうございます
─ねこじろう