彼の目が大きく見開かれる。恐怖が走るのがわかる。心臓が速く打ち始めるのが聞こえる。
——ああ、この音。
懐かしい。この音を聞くと、私は確かにここに存在していると思える。
だから、もっと聞きたくなった。
私はゆっくりと席を立つ。彼のすぐそばまで歩く。
「……降りないとダメだよ。」
耳元で囁くと、彼の体が大きく震える。
彼は必死で目を逸らそうとする。でも、だめ。
私は彼の背後に立ち、肩越しにそっとのぞき込む。
「ねぇ、見えてるんでしょう?」
田中の喉がひゅっと鳴る。
スマホを取り出し、震える指で画面をつける。
——そこに映っていたのは、田中の肩に手を置く、私の姿。
顔は青白く、目は真っ黒な闇のように沈んでいる。
「ひっ……!!」
田中は飛び跳ねるように立ち上がる。電車は次の駅に滑り込み、ドアが開くと同時に彼は転がるようにホームへ降りた。
私は、その姿を静かに見送る。
扉が閉まり、電車が動き出す。
ホームで息を荒げ、へたり込む田中が見える。
私は、ガラス越しにゆっくりと口を動かす。
「——次は、逃がさないよ。」
***
彼は気づいていない。
ホームに降りた彼の足元。
そこに、私と同じ影が落ちていることを——。
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