消えた友達と残された家
投稿者:黒音リト (1)
「本音を言うと少し悲しかった。お姉さんが亡くなってるなんて大事なこと、結婚するまで黙ってたのはなんでなんだろうって……。彼はお姉さんの死について、〇〇家の恥だって言ってた。そんな言い方するくらいだからどんな死に方したかの想像はつくけど、なんか……ね……」
そう言って寂しそうに笑うアヤの顔が今でも頭にこびりついています。
義母が施設に入ったため、アヤは旦那さんが帰ってくるまで一人でこの家を守ることになりました。
しかしアヤはこの家にいたくないと言うのです。
それで私に助けを求めたとも言っていました。
「なんかね、私以外に誰かいるみたいなの」
アヤの話によると、義母がいなくなってからこの家に誰かがいると強く感じるようになったそうです。
台所で洗い物をしている時、ゴミを一袋にまとめている時、買った野菜を冷蔵庫に入れる時、干した布団を取り込む時。
ふとした時に視界の端に誰かが入り込むのだそうです。
ある時はピンクのワンピース、ある時は真っ白なブラウス、ある時は赤いコート、ある時はグレーのTシャツ……
その時々で服装は異なるそうですが、アヤ曰くそれは全て同一人物で、どことなく遺影のみなみさんに似ているのだそうです。
「私、怖い。このままここに一人で住み続けるのが怖い。今はまだ視界の端っこだけど、いつか急に私の目の前に現れるんじゃないかって。そう考えると怖くて怖くて夜も眠れなくて……」
近所であれば私もこの家に泊まることでアヤの不安を取り除くことができたでしょうが、残念ながら私にも仕事がありますしそんなことは不可能です。
結局「帰らないで」と縋るアヤを置いて帰宅することになりました。
可哀想という気持ちももちろんありましたが、私にはどうすることも出来なかったのです。
しかしこれが結局、私が見たアヤの最後の姿となってしまいました。
私と会った数日後にアヤは失踪しました。
今となってはあの時アヤを置いていってしまったことに後悔しかありません。
それからしばらくして中国に行っていた旦那さんが緊急で帰ってきましたが、早々に家を手放してどこかに引っ越して行ったようです。
実は、旦那さんが帰ってくる少し前に、アヤの身内の方からの依頼で私ひとりであの家の様子を見に行きました。
ついさっきまで誰かがいたような生活感のある家なのに、そこには誰もいない。
それがとても気味悪く思えました。
ひと通り家の中を確認して帰ろうと思った時に、仏壇の前に座る人が見えました。
えっ?と思い和室に入りましたが、もういません。そもそも人がいるはずないのです。
「やっぱり見間違いだったか……」
帰ろうと玄関に向かうと、ポンと肩を叩かれました。
反射的に振り向くと、生きた人とは思えない青白い顔をした女性がそこにいました。
『あたし、みなみ、みなみ』
女性が笑いながらそう言いました。
開かれた口から生臭い息が吐かれ、私は発狂して家を飛び出しました。
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