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心霊

ひなたんさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

海水の匂い
短編 2025/01/17 02:21 951view
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今から10年くらい前、当時まだ学生だった私は家近くのビジネスホテルでアルバイトをしていました。
アルバイトは土日祝日と長期休暇中のみ、朝から午後の3時頃まで、部屋の清掃とベッドメイクをします。
そんなに大変な仕事ではないのでワンフロアにある5部屋ほどの客室を全てひとりで担当するのですが、よほどの繁忙期でない限り全ての部屋が埋まることはないので、大抵は2〜3部屋回って終わりでした。
暇な時は一部屋だけ清掃し、お昼前に帰宅することもありました。

ある日のことです。
若い男性がひとりで使用したシングルの部屋の清掃に入りました。
部屋の中は驚くほど綺麗で、お風呂場と洗面台も使用された形跡が見当たらないほどピカピカでした。
しかしお風呂場のシャワーヘッドに、真っ黒な長い髪の毛が数本絡まっていました。
髪の長い女性客が泊まっても、こんなところに髪が絡まることは滅多にありません。
この時点で少し不気味なものを感じていました。

ベッドも綺麗に使われていましたが、布団をめくるとシーツが異様に濡れていました。
尿やジュースの匂いではありません。どうやら水…しかも海水のようです。
私が働いていたホテルは海の無い県にあったので、海水がつくことなんてまず無いのですが、私は休暇中に友達と海に遊びに行くのが好きだったので匂いで海水だと確信しました。

他にもおかしな点はいくつかありました。
ゴミ箱に捨てられた女性の写真。これはなぜか首から上が切り取られていました。
しかし肩にかかる髪から、長い黒髪の女性であることがわかりました。
そしてトイレのドアノブには先程のシャワー同様に長い髪が絡まっています。
若干、濡れたような髪でした。

清掃とベッドメイクを終え、他の部屋の清掃も終えた後、私はフロントの先輩にあの部屋のことを伝えておきました。
すると先輩が何かを思い出したような顔をしました。

「そういえばあの部屋に泊まった男性、ひとりだったけどエレベーターに乗り込む時に後ろに女の人がいた気がするのよね。見間違いかなと思ったんだけど」

その日の夜、私は悪夢にうなされました。
仕事中の夢なのですが、どれだけ部屋を綺麗にしてもあちこちから髪の毛が湧いてきて掃除が終わらないのです。
とうとう床が髪の毛で埋め尽くされて呆然としていると、浴室からシャワーの音が聞こえました。
そこに行くと、全身ずぶ濡れの女性が立っていました。長い髪からぽたぽたと水が滴っています。
その女性は私に背を向けたまま、唸るような声で言いました。

「……のに……泳げないのに……置いてかれたのは……」

聞き取れたのはそれだけでした。
その女性がゆっくり振り向こうとしたところで目が覚めました。
動悸が止まらず、何故かボロボロと大粒の涙が溢れてきました。

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