ポケモンと私
投稿者:ゆーきゃん (1)
愛佳さんの不登校期間は、二年生にあがる頃まで続いた。
その頃には彼女も幼いながらに漠然と、このままではいけないのかもしれない、という意識を持つようになっていた。
学校へ行ってみたいと言った夜、両親は泣きながらそれを喜んでくれた。
まずは保健室登校からということになった。程なくして、去年から学校を休んでいた級友のことが気になった一部児童達が保健室を訪れ始めた。
最初は恐怖だったが、そこは先生がたの尽力もあって、徐々に愛佳さんは彼らと打ち解けることができた。
そして二年生の夏休み明けには、週に一・二回、限られた時間だけだがクラスで一緒に授業を受けることも増えた。
やがて三年生に上がる頃、愛佳さんは完全に小学校への復学を果たす。
相変わらず大声や乱暴な言動は苦手だったそうだが、幸い理解ある大人や友達に恵まれたおかげか、その後は不登校に陥ることもなく、ほどほどの学校生活を送っていけたそうだ。
現在、愛佳さんは大学生活中に知り合った男性と結婚し、妊娠三ヶ月である。
愛おしそうにお腹を撫でながら、彼女は困惑した様子の僕にこう言った。
「これでお話は終わりです。私、あの子達のおかげで立ち直れたんですよ」
怪談を集めていると、わけの分からない話というものには度々出くわす。
が、これほど疑問符を禁じ得ない話も僕の周りにはなかなかなかった。
「ごめんなさいね、怖くない話しちゃって。
ポケモンは、保健室登校を始めた頃からまったく見えなくなりました。
というか、彼らが私の前に出てきてくれなくなったんです」
ポケモンという、それこそ子どもでも分かるようなフィクションのキャラクターと過ごした幼少期。
それに理屈を与えるなら、やや無粋だが”イマジナリーフレンド”が最も合致するなと僕は思った。
幼い子どもは時に、自分の想像上の友人と語らい、共に遊びながら大きくなる。
「あの子達ね。みんな優しくていい子だったんですけど、ひとつだけ困ったことがあって」
新環境で受けたストレスが愛佳さんの心を追い詰めた結果、脳が大好きなポケモンと一緒に過ごす幸せな時間という幻像を作り出したのかも知れない……そう考えていた僕に、愛佳さんは続けた。
「なんでかね、やたら私を暗いところに連れて行きたがるんですよ。
ベッドの下とか、物置部屋とか、押し入れの中とか。みんなで私を囲んで、くいくい、って手とか口とかで私のズボンを引っ張るんです。
私暗いところ苦手だったので、そっちには行かないよ、って頑なに拒んでたんですけどね」
「最後の日のこと、今でも覚えてます。
いっつもみんなニコニコしながら寄ってくるのにね、その日に限ってみんな真顔でね、鳴き声もあげないでね。
私の服引っ張って、押入れの方を見るんです。私がやだ、行かないよ、って言ったら、すっと手ぇ離しちゃって。
で、それっきり。みんなして押入れに入っていったとかもなくて、夢みたいにぽんと消えちゃいました」
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