カラオケ店で起きたこと
投稿者:申し訳ありません (5)
私が高校生の時の話です。
歌う事が大好きだった私は、学校から帰ったらすぐカラオケに行くのが習慣でした。
カラオケといっても、都会にある系列店のカラオケではなく、近所にある小さな寂れたカラオケ店で、私は毎回2時間丁度歌って、家に帰っていました。
ある日のことです。
私はいつものように学校から帰ると、真っ直ぐカラオケ店に行きました。
そこには50代くらいのワンオペのおばさんがいて、「ああ、また来たのね」という顔をされながら、部屋に案内をされました。ほつれが酷い茶色のソファーに座ると、私はさっさと
採点機能を入れて、いつものレパートリーの曲を入れて、歌い出しました。
1時間歌ったくらいの時でした。
不意に、男性のやけに大きい叫び声が聞こえました。
カラオケ店ですから、シャウトする人がいるのは別に珍しくないですし、下手くそな大声が隣から聴こえることは、たまにありましたが、その叫び声は、人命に関わるような、危機感を煽る声でした。
私は驚いて、ドアを開けました。
店内は田舎の割に酷く狭く、部屋同士も数歩の距離にあったので、他に客がいないことは明白でした。
一応入口まで見に行きましたが、おばさんに変な顔をされただけで、他に人はいませんでした。
気のせいということにするには、かなり鮮明な叫び声でしたが、考えるのも不快だったので、私はその時気のせいということにしました。
それからしばらくして、またカラオケ店に行く機会がありました。
前回あの叫び声を聞いてから、私はなんとなく気が引けて、いつもよりもかなり間隔を空けて行きました。
いらっしゃいませ、とガラガラ声のおばさんがその日も鬱陶しそうな顔で接客してくれました。
歌い出して1時間後、また叫び声が聞こえました。今度は鳥肌が立つような、うわああああという男性の声でした。何か訴えるような痛々しさを感じる、悲痛なくぐもった声でした。
私はもうそこに居られなくなって、おばさんの顔をろくに見もせず、お金を受付に置いてすぐに帰りました。
家に帰っても青い顔をして、母親に心配されたのを覚えています。なんだか口に出すのが怖くて、大丈夫だよ、とか細い声で言いましたが、恐らく母は普通ではない何かを察したのではないかと思います。
私はもうそこのカラオケ店には行かなくなりました。
その場所以外で、その声を聞いてはいませんでしたが、しばらく耳にこびりついてしまったので、思い出さないように避けていました。
1ヶ月以上経って、そのカラオケ店は閉店しました。
割とすぐに、古びた木造の建物が潰れ、更地になっていったことを覚えています。
無くなって残念な気持ちより、安堵感が大きかったです。もう気にしなくていいんだ、と思いました。
「ねぇ●●、この店って…」と母に言われてテレビでカラオケ店を見たのは、それからすぐのことでした。
男性の遺体が発見された、というニュースでした。見覚えのある店が画面に映っていました。解体作業中に建物内から発見された遺体は損傷が酷く、少なくとも亡くなってから5ヶ月は経過しているのではないか、ということでした。
参考人として、この店の店主であった女性に話を聞いていると、アナウンサーが淡々とした声で言って、それについてのニュースは終わりました。
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