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心霊

バクシマさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

わしとケイの物語
長編 2024/09/13 00:42 1,383view

 おやすみ 『ケイ』 

 どこからか、そう呼ばれた気がした。
 そのまま俺は、夢の世界に沈んでいった。
 そこは明るい太陽の下、爽やかな風につつまれた、緑の美しい丘の上だった。芝生には肌触りの良い敷物が広げられ、犬のように人懐っこそうな美少女が、ちょこんと座っている。
 少女は微笑みながら俺の手を優しく握ってくれた。
 それから俺たちは、笑い合い、語り合い、見つめあっていた。 
 いつまでも いつまでも。 

 ……ごろごろと雷鳴が鳴り、ざぁざぁと大雨が降りしきるなか、寂しい廃車置き場にはポツンと一台の軽トラが佇んでいた。

 その軽トラの助手席でスヤスヤと眠る歳若い青年。その寝顔は誠に幸せそうであり、
 「俺は お前に出会うために生まれたんだな……」
 などと歯の浮くような寝言まで呟いた。
 とはいえ、彼の人生はこれまで苦難の連続であったし、それが転じて、今ようやく幸福のひと時を享受しているのだから、この程度の浮かれなど、そっと温かく見守るべきであろう。
  
……たとえその幸せが『虚妄』であったとしても……

 幸せそうな青年の寝顔に、ポタポタとドス黒い血が滴り落ちていた。
 その血は、先程からジィーッと青年を見下ろしている怪異の眼から垂れていた。

 『そいつ』は、ドラッグストアで青年に目をつけた時から、ずっと運転席から青年に邪(よこしま)な感情を注いでいた。
 公園でも、海でも、ホームセンターでも『そいつ』は姿を消しながら青年の隣にいた。
 今も『そいつ』は運転席に座っている。
 そして股間を膨らませながら、青年に歪んだ眼差しを向けていた。
それから
「俺は お前に出会うために生まれたんだな」
という青年の愛の告白に応えるべく、
寝ている彼の耳元に、濁った吐息を絡めながら囁いた。

「わしもだぞ♡」

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