消えた小沢くん
投稿者:とくのしん (65)
「は~いどちらさま?あら田中くん。どうかしたの?」
「小沢くんのお母さん大変だよ!小沢くんが誘拐された!」
僕の一言におばさんの表情が変わる。
「どういうこと?」
「だから!変な男に小沢くんが捕まって!」
取り乱した僕を宥めながらおばさんが言った。
「田中くん、うちには男の子はいないわよ」
え・・・?
その一言に僕は次の言葉が出てこない。口をパクパクさせながら抱えているランドセルをおばさんに渡した。
「このランドセルどこで拾ったの?・・・確かにうちと同じ“小沢”って名札があるけど、うちのものじゃないわ」
「そんなはずはないよ!だって小沢くんはここの・・・!」
おばさんは困惑しながら
「田中くん、大丈夫?お母さん呼んでくるから待ってて」
すぐ斜め前の僕の家に向かっておばさんが駆け出した。おばさんがインターホンを鳴らすと母が出てきた。玄関前で母とおばさんがしばし話をする。その後、二人揃って僕のもとへと戻ってきた。
僕は先程あった出来事を、母に包み隠さず話した。しかし、母もおばさん同様“小沢くん”を知らないという。小沢くんの母親でさえ、うちには“男の子はいない”と何度も存在を否定した。それじゃ先程まで一緒だった小沢くんは誰だったのか・・・。
母とおばさんは僕が誘拐現場を目撃して激しく錯乱しているのだろうと、そのように結論付けているようであった。そして母が警察を呼ぶため一度自宅に戻る。
10分程して母は自宅から出てきて、僕とおばさんに警察を呼んだことを伝えた。
それから間もなくするとパトカーがやってきた。降りてきた2人の警察官に僕が見たことをありのままに伝えた。それと誘拐された“小沢くん”のことをおばさんも母も知らないと言ったことも伝えた。
警察官は母とおばさんに“小沢くん”について質問をする。しかし、返ってきた答えは二人とも「そんな子は知らない」だった。
警察官も同様に“僕が誘拐現場を目撃したことで錯乱している”と結論づけているようであった。ひとまず誘拐があった事実確認をすべく、母とともに小沢くんの誘拐現場に行くことにした。パトカーの後部座席に乗せられ現場へと向かった。現場についた僕は坂の下から男が追いかけてきたことから説明を始めた。そして一部始終を説明しながら茂みやその先の場所に向かった。警察官は僕の言葉を半信半疑ながら現場検証を行っていたが、人が争った形跡があることから捜索を行うことを僕らに伝えた。そして、僕らはあとから来たパトカーで自宅に送り届けられた。
次の日、玄関を開けるといつもであれば斜め向かいに立っている小沢くんの姿は当然なく、僕は一人で登校した。クラスに入ると昨日の出来事が伝わっているようで、僕は誘拐犯を目撃した男になっていた。一躍注目の的になった僕は、周囲からそのときのことを事細かに聞かれる。質問責めにあうなかで、小沢くんの話をすると
「そいつだれ?」
「そんなクラスメイト知らない」
と誰もが口を揃えて言った。その反応を見て僕は廊下側の前から3番目の席の小沢くんだよとみんなに言うが、やはりここでも小沢くんの存在はないものとして扱われていた。小沢くんの存在に固執するあまり、僕は誘拐事件をでっちあげた嘘つき呼ばわりされることになるのであった。(長続きはしなかったけれど)
それもそのはず、クラスに掲示された学級新聞や習字の展示物、遠足の風景写真からも“小沢くん”は消えていたからだ。家にあった僕と小沢くんを写した写真からも綺麗に“小沢くん”だけが消えていた。ここまで来ると子供心ながらに、本当に存在しなかったと思わざるを得なくなっていくのは自然なことだろう。
そうして月日は流れ、中学校・高校・大学と進むにつれて、いつしか僕の記憶からも小沢くんの存在は消えていた。何せどこにも彼の名前はないし、誰からも彼の名前は出てくることはない。
だが、成人式のときの同窓会で僕は久々に“小沢くん”の存在を思い出すことになる。
最高にいい話でした!なんかせつなくてジーンと来ました。
鳥肌が止まりません!
今月も投票ありがとうございました。
6月も2作品投稿したのでよろしくどうぞ。
とくのしん
結局無視したんかい………
有り得ない話だけど面白かったです
感動